1-5
「俺実はさ、あすなろセカンドにいたんだよね」
グラウンドに向かう途中、突然弥生がそんなことを言い出した。弥生とは同じクラスで、一緒に部活に向かうことが多い。
「えっと、名前は聞いたことある」
「ここには先輩いないしなあ。去年までいたんだけど」
これまで一年生の中に中学校の経験者は三人しかいないと思っていた。それは、ちょっとした優越感にもつながっていた。
「でも、それなら
「一年でやめたからなあ。試合にもほとんど出てない」
「そうなん?」
「くそきついもん。高校でもラグビーするとは思わなかったよ」
「何で入ったの?」
「ここのは楽しそうだったから」
「わかる」
優勝できるようになったと言っても、総合先端未来創世高校ラグビー部にはどことなく緩い感じがある。
「だからさ……俺いなくなったら、きついってことだから」
「え?」
「続けられる気がしないんだよねえ。そん時も軽蔑しないでね」
弥生は笑いながら、ひらひらと手を振った。
「練習試合の相手が決まった。
龍田監督が発表する。先輩たちはこのことを予想していた。昨年度も最初の相手は乃小沢だったらしい。
昨年霧下高校と統合した乃小沢高校は、徐々にラグビー部員が増えてきたという。
「私もまだ相手チームもこのチームもよくわかっていないから、とにかく全力で立ち向かいたい。100点でも200点でも取って」
「ちなみに昨年は52-0でした」
マネージャーの道田さんが情報を加える。二年生の先輩で、とても落ち着いている。僕にとってはマネージャーがいるのも初めてなので、なんかありがたさに拝んでしまいたくなる。
「人数も多いから、ふるいにかけられるということを意識して。先輩だから試合に出られるわけじゃない」
それは一年生でもチャンスがある、ということだ。僕は改めて思った。花園で活躍したい。犬伏さんのように。
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