1-4
ボールは、テイラーさんの手の中にあった。外に出た瞬間に攫っていったのだ。
スタンドオフの戸北にパスが渡った。
「い、く、ぞっ」
「おいっ」
変な掛け声とともにすぐキックしたので、思わず声を出してしまった。サッカー部出身で、とにかく蹴りたくて入部したらしい。
まだ楕円球に慣れておらず、勢いで蹴ってしまったのでボールはあまり前に飛ばなかった。時間的に外に出て試合終了の可能性もあったが、なんとか内側に跳ね返ってきた。
そのボールをつかんだのは、沐阳だった。大きくて力強くて、しなやかな走りだった。
「来いやあっ」
二年生ロックの今岡さんが立ちふさがったが、沐阳はかわして走り抜けた。
「ええっ」
振り返りながら目を丸くする今岡さん。たしかに、あんな動きをする体格には見えない。
トライできるかも。そう思った時、三年生ウイングの金田さんが沐阳に絡みついた。かわし切れなかったのだ。体格の小さな金田さんだが、うまく沐阳の動きを封じている。そこに二年生センターの安生さんもタックルに来て、沐阳の出足が完全に止まってしまった。総合先端未来創世高校ラグビー部の得点源となってきた二人だが、守備も絶品である。
ここで食い止められてしまったら、勢いをつなぐ力は一年生チームにはない。そのまま試合は終了し、僕らは得点することができなかった。
試合終了
上級生チーム 40-0 一年生チーム
「あの、犬伏さん」
「ん?」
「なんでキッカーじゃなかったんですか」
ノーサイドになり、俺は犬伏さんに駆け寄っていった。どうしても聞いておかねばと思ったのだ。
「なんでだろ。監督が決めた」
「ええ……?」
キャプテンが意図を理解していないとかあるのだろうか。
「僕もまだ、監督の傾向とかわかんないからね。一緒に見て行こうか」
犬伏さんは、なんかうれしそうである。
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