1-2

〈途中経過〉

上級生チーム 14-0 一年生チーム



「うっそだろ」

 善導は眉間に皺を寄せた。

 開始3分。すでに上級生チームは、2本のトライを決めている。バックスが一気に走ったのを、誰も止められなかった。

 一年生歓迎対抗戦は、お祭りのようなものである。誰も一年生が勝てるとは思っていない。こちらは多くのメンバーがラグビー未経験者で、ルールすらまだ怪しい。ただ、「どれだけ差を縮めるか」は気にかけている選手がいる。少しでも失点を抑え、完封されないことが一年生チームの目標なのである。

「速すぎる……」

 僕も驚いていた。想像していたよりもずっと先輩たちが強かったのである。弱小校にいた僕は、強豪校との対戦がない。僕は初めて、「すごい強いチーム」と相対している。

 あと、気になることがあった。コンバージョンキックを蹴っているのが、犬伏さんではないのだ。中学の頃から犬伏さんのキックはすごかった。二年前に優勝できたのも、犬伏さんのキックがあったからこそである。今日は、フルバックの中谷さんが蹴っている。久々にあの超絶キックを生で観たかったのに、残念だ。

「まだ始まったばかりだよー、大丈夫ー」

 此村さんが声を出す。とても勝てるとは思えないので、「気持ちを切らさないで」ということだろう。

 幸い、完封を逃れる挑戦は慣れている。三年間、そういうチームにいたのだ。

「沐阳、止めよう!」

 振りむいて、声をかけた。沐阳ムウヤンは、無言で右手を挙げた。実はまだ、ちゃんと喋ったことがない。中学から顔見知りだった人たちと違い僕は県外の人間で、なんとなく距離を感じている。犬伏さんと西木さんは同県出身でキャプテンと部長であり、そちらに親近感を感じて話しかけてしまうのだ。

 味方なのに、威圧感がある。背後から、迫られているような気がする。

 そして、またトライを決められた。



 ラグビーを始めたのは、成り行きだった。他に入りたい部がなかったのである。

 うちの中学校には、野球部もサッカー部もない。昔は生徒数が少なくて、団体競技をするという発想自体がなかったらしい。

 次第に生徒数が増えてきて、最初にバスケットボール部ができ、次にラグビー部が創設されたという。野球部でもサッカー部でもなく、ラグビー部が。

 できたと言っても、部員数が15人を越えたことはないらしい。いつも助っ人を頼んで、何とか試合に出ていた。

 まあ、やる気があるとは言いがたい部だった。負けるのは当たり前で、1点でもとる、というのがなかなかかなわぬ目標だった。

 その目標は、達成されることがあった。犬伏さんのバカみたいなキックで、だ。あり得ないところからペナルティキックやドロップゴールを決める。そうやって、完封だけは免れるのだ。

 そんな先輩が。花園に行く。

 それは、大事件だった。


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