第16話

「があああ!頭痛が痛いー!!!調子に乗りすぎたー!」


 ドラゴンを殺してから10分が経過した今日この頃、私はズキズキと痛む頭を抱えながら叫んでいた。


 まあ、当然っちゃ当然だ。

 だって今までの限界の限界だった同時身体強化5層付与を大きく超えて7層付与+自己治癒を同時に行ったのだ。

 脳と体、それと魔力線が悲鳴を上げるのは当然のことである。

 

 こうなるって覚悟はしていたものの、やっぱり耐え難い痛みだ。

 

:自業自得

:準備を怠った主が悪い

:まあ、生きているだけいいじゃん

:正直主が死ぬかもって思った


「うん、完全に私の自業自得なのは否定しない。でもさ、痛いよおおおおお!!!痛み死しちゃうかもしれないよおおお!!!」


:痛み死www

:さっきまでいい感じだったのにww

:脳の処理回路が焼き切れたんじゃ?


「たぶん、そうです。脳の処理回路がショートしたんだと思います。でも、脳の構造が複雑すぎて自己治癒じゃ治せないんですよ。だから今困ってるんですけど」


 脳の構造は非常に複雑である。

 コンピュータのCPUの様な、半導体に不純物を混ぜ込んで作ったものとは訳が違う。

 治癒しようにも肝心のどこを治療すればいいのか、またどのくらいの魔力供給が必要かなんて分からないのだ。

 それこそ生物学者とか医者とかなら分かるかもしれないが、そういうのの知識ゼロでなんとなく身体強化を使用している私が、脳の治癒を安易に行えば最悪の場合、脳が吹き飛ぶなんて事になりかねない。

 まあ、超頑張れば行けるかもしれないが、それでも先ほどした限界を超えた身体強化の同時発動とは難易度もリスクも比じゃない。


「えー、はい。大変申し訳ないのですが、ただいまを持って回復ポーションを使用しようと思います」


:マジで?後悔しない?

:絶対に後で後悔する

:じゃあ、さっきの戦いでポーションを使わなかった意味は?

:後で泣く未来が見える、見えるぞ!

:やめとけwww


「いいや、限界だ飲むね!今だッ!」 

 

 そして、一気に10瓶あるうちの1つを煽る。


:あーあ、飲んじゃった

:笑ってしまったw

:計画性とは?

:戻る!活力が戻ってくるぞッ!!!


「かあーッ!キンッキンに冷えてねええええええ!!!クソカスどもがあああ!!!」


:即オチ2コマ

:オラオラオラオラオラオラァ!!!

:この配信、A-1の攻略って聞いてたんですが、間違えました

:草

:やめろ!初見が帰っちまうよ!

:初見は帰れなのだw


 温かい魔力が全身に流れ込み細胞の再生を促し、脳の激痛が和らげる。

 こちらは意図的な再生への干渉とは違い、それは細胞の再生を促すものであるため自動的に全ての部位が回復していった。

 数分ほど経過すると、完全に頭痛は無くなっていた。


「ふう、やっぱ人間って欲望に忠実な方がいいと思うんですよね。それに効果を確かめられたってだけでお釣りがついてくるレベルだと思うんですよ」


:賢者タイム?

:クソ!なんて幸せそうな顔をしてやがる!!!

:欲望の解放の仕方が上手いwww

:お釣りは来ませんwwww


「まあそんなことはさておき、頭痛が引いたので探索を再開しましょか。と言っても実はもう既にボス部屋は近いっぽいんですけどね」


:なんで分かるん?

:魔力探知使えないのに?

:マジかよ

:早くね?


「ええ、さっき戦ったドラゴン、あれ明らかに門番じゃないですか。だって素材落とさないですもん。ダンジョンのボス部屋の前って、実は必ず門番がいるんですよね。で、門番は素材を落とさないっていう習性?があるんですけど、さっきのドラゴンは魔石も何も落とさなかったんで多分そうかと。あ、ちなみにD-18の時は無視してました」


:確かにそうだ

:賢い

:さらっと明かされる真実に涙を禁じ得ない

:無視してたんかwwww

:かわいそ酢

:D-18の門番が泣いてるぞw


「バカな事を言ってないでさっさと行きましょう。時は金なりです」


:バカとはなんだバカとは

:バカって言った!

:さっきまでのたうち回っていたとは思えないwww

:ありがとう・・・・・・

:主、実は可愛いから罵倒されると嬉しいナ


「きm・・・・・・ゴフンゴフン。失礼、咳が」


 そんな感じで気持ち悪いリスナーと戯れつつよっこらせ、と立ち上がる。

 うん、脚に異常はないな。

 自己治癒だけでなくポーションも飲んだお陰で全く痛みがない。

 買ったのは下級ポーションだが、思っていたよりも効果があった。

 次買うときは上級ポーションを買ってみようかな?

 

 なんて考えながら迷宮を歩み出す。


「さあ、見えてきました。本日のメインディッシュが」


 数分ほど歩いていると、石造の巨大な扉が見えてきた。

 D-18のソレとは違い近づくだけでピリピリとした威圧感を感じる。

 でも、不思議と恐怖はない。

 寧ろ明確な死の気配にワクワクしてしまっている自分すらいる。


 正直、ここからは今までの様には行かないだろう。

 ドラゴンと戦った時も、まあヤバいとは思ったがポーションという切り札があったからこそ余裕を持っていられた。

 でも、ここの先にいるのは事実上この世界で最も強い魔物なのだ。

 門番如きとは格が違う。

 だからこそ、気を引き締めよう。





「ふう、人間って死の間近に居ると、焼肉が食べたくなってくるんですね。帰ったら、私焼肉食べようと思います」


:今その話する!?

:おい、フラグを立てるなw

:主らしいっちゃ主らしいなww

:そんな装備で大丈夫か?



「──大丈夫だ、問題ない。それに、勝つさ」


:おおおおおおおお!

:死亡フラグの洪水wwww

:オイオイオイ、死んだなあいつwwwwww

:ガチで草

:こいつホンマwwwww

:まあ、どうせ勝つだろw

:言いやがったぞww

:俺たちはここで見てるからよ、主はさっさとボスを倒して来い





「──では、伝説を作ってこようと思います」

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