第13話
ダンジョンエレベーターから出ると、そこは一面の闇だった。
恐ろしく濃密な魔力に満たされており、魔力探知は効きそうにもない。
光も魔力も捉えられぬ空間は、まるで目隠しをしているかのようであった。
深海にも劣らぬ死の要素に満ちた世界である。
常人であればこの空間に数分いるだけでも精神的に発狂しかねないだろう。
ちなみに、私も既に精神的にやられてしまいそうだ。
常時目隠しをしているような状況で正気を保っていられる人間など居ないからね。私も人間なのだ、当然の反応である。
「でも大丈夫。このGooggl pxereがあれば」
てな訳で取り出すはスマホ。
最近のスマホというのは進化が目覚ましいもので、そこいらの懐中電灯に劣らぬ照明と、長時間それを維持できるエネルギー効率も手に入れたのだ。
そしてスマホを額にバンドで固定し、なんちゃって探検ライトを作る。
今思いつきで作ったけどそこそこの出来で満足だ。
これで視界は確保されただろう。
:賢いw
:Googgl先生に感謝
:おお、凄え
:一気に明るくなったなw
「まあ、魔力探知は出来ませんが、視界は確保できたんでOKです。なんならワクワクしてきました」
:なにもおkではないwww
:なんだこのノリ(困惑)
:9層は特に精神的に病むって聞くけど・・・・・・
:うん、分かってた
:ワクワクは草
「だって仕方ないでしょう?私なんて今まで資格がなかったし色々あってD-18にしか潜ってこなかったんですよ。でも今日初めてA-1に潜れたんです。自分より強い魔物と戦えると思うとわーくわくしてしまう」
:戦闘狂
:可愛い顔して言ってることやばすぎww
:本当にこの人は同じ人間なのだろうか
:主はいつもこんな感じなん?
「いや?私は前までこんな感じじゃなかったです。実は私、ダンジョン出現孤児だったんですよ」
:察し
:・・・・・・
:そうやったんか
:大変やったな
まあ、そんな反応になるわな。
今日本でダンジョン出現孤児です、と言えばどんな人でも憐んでくれる。
幼くして親を失った哀れな子供。
そんな感じだ、世間の認識は。
「私がまだ小さな頃に両親を亡くしたんです」
:・・・・・・
:・・・・・・
:・・・・・・
「両親は私を庇って死にました。正直、今でもトラウマです。誰かを、何かを失う事が怖くて怖くて仕方なかった」
でも、違う。
気づいたのだ。
「でも、それでもやっぱり私は欲張りで、推しに金をいっぱい投げれるくらい金が欲しいし、有名にもなりたい。そして、もう何も失いたくない。だから強くなりたい・・・・・・」
暗闇に静寂が満ちた。
「まあ、私は不器用なんで強くなるって言っても精神的に、とかじゃなくて本当に強くなることしか分かんないけど。だから、A-1の9層のボスを倒して強くなりたいんです」
:おい、そんな話をするなよ
:涙腺が
:泣いちまうよ
:大変だったな
:不器用な主が好きやで
:頑張れ、応援してる
:俺たちが見ててやるから、主はとっととボスを倒して来い
「ありがとう、そんなこと言われたら余計ワクワクしてしまうじゃ無いですか」
そして、笑う。
不思議と口角が上がってしまうのだ。
やっぱり私は欲張りだ。
余計9層のボスを倒して、前人未到のダンジョン制覇もやり遂げたくなってしまったではないか。
「まあ、そんな事はさておき、実はさっきから私、見られてるんですよね」
:?
:見られてる?
:突然怖い話しないで
:魔物に?
:こわy
「ちょっと、集中するんで黙りますね」
目を閉じ、集中。
魔力探知は依然全く効かないが殺意は分かる。
ピリピリとした、肌を刺激する何かの居場所を探す。
魔力探知ほど正確ではないが、それでも大まかな場所は掴める。
瞬間、何かが動いた。
本能が警鐘を大音量で鳴らした。
咄嗟にその場から回避した。
ズダダンッッ!!!
が、しかし回避がギリギリ間に合わず脇腹を刃物の様な何かが掠めた。
ドボドボと鮮血が傷口から流れ出る。
「痛い・・・・・・」
だが、この位なら大丈夫だ。
自己治癒で治せる
しかし、真にヤバいのは自己治癒は大量の魔力と脳のリソースを割かねばならないという点だ。
D-18の時の毒沼のような、肌を焼く感じの傷ならば多少はマシだが、今回のような切り傷だとありえないくらいリソースを割かなければならない。
だから現状魔物との戦闘状況下において、回復魔法は使用できない。
「ふんっ!」
仕方がないので無理やり筋肉を硬直させて止血する。
多少の漏れはあるが、それでもかなりマシになる。
ちゃんとした処置ができない現状においては最も良い処置だろう。
「・・・・・・シッ!」
出血の問題が解決したので、今度はこちらから攻撃。
巨槌を手に取り駆け出す。
先ほどの攻撃で、敵の居場所はハッキリ掴めた。
敵はスマホのライトの外側から攻撃してきた。
どうやら私が夜目が効かない事を知っていて、さらに光の上では視線が通ることを把握しているようだ。
流石は9層の魔物であるだけはあって、大変狡猾だ。
意思のない魔物とは思えないほど賢い。
まあそれでも人間さまには敵わないのだが。
賢かろうが敵の思考の裏をつけば意味のない話である。
数秒ほど走り、敵が追ってきていることを確認したらクルッ、とターン。
要は敵は私の視線が通らない場所──つまりは真後ろに居るって訳だ。
「──ビンゴ」
すると、予想通り猪の魔物がいた。
意表を突かれて血迷ったのかそのまま突撃してきた。
だが、それは私の土俵である。
ゴギャンッッ!!!
巨槌を逆袈裟斬りの様に振り上げ、顎を砕いた。
原型を留めぬほど頭が粉砕し、魔物は絶命した。
「ふう、強かった。9層の魔物って強いですね」
:当たり前ww
:腹大丈夫?
:グロいグロい
:血やばい
「ああ、お腹の傷ですか?これくらいなら回復薬なんて使わなくても自己治癒で大丈夫」
でも、と付け加える。
「戦闘中に自己治癒はリスクが高いんで出来ません。ですので、ヤバくなったらポーションの出番って訳です。あれは飲むだけで治療とマナ回復を行ってくれますからね」
:たし蟹それなら行ける?
:ヤバくなってからじゃ遅くね?
:お?
:数が心許ない
「まあ、今の戦闘で少し準備不足を感じましたね」
:少しwww
:おかしいだろww
:全く足りないの間違いじゃなくて?
「さて、そろそろ自己治癒も済んだので進みますか。まだまだ9層攻略は始まったばかりです。諦めるには早いです」
立ち上がり、歩き出す。
うん、さっきの戦闘で分かったが、9層は攻略できる。
ボスがどうだかは知らないが、それでも魔物のレベルはどうにかなりそうな感じだったので大丈夫そうだ。
まあ、先ほどまで余裕をぶっこいていたのは確かだ。
魔物の攻撃を避けれないくらいには。
でも、油断しなければ大丈夫そうだ。
・・・・・・フラグ立てたかな、今。
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