第12話

 ──ダンジョンとは、人を食らう迷宮である。

 そんな言葉をどっかで聞いたことがある。


 それは突然日本に現れ、多くの人々の命を奪い、そして今では日常に溶け込みつつある。

 ダンジョンの中には多くの資源が巡り、人々をその中へ駆り立てる。

 しかしながら、ダンジョンの中に眠る資源はどこから来たのか?という疑問も科学者の間では議論されているらしく、一説には人の魂を使用しているという物もある。

 勘のいい人間ならば分かるだろうが、ダンジョンの出現に際して奪った人々の魂は資源となり魔石となり、魔物となっているという説だ。


 そして、未だに魔石を核とする魔物は常にダンジョンのどこかで沸き続けている。

 そのエネルギーはどこから?

 そう、魔石を求めて潜る冒険者の魂から・・・・・・


 

「まったく怖い話ですよね。おお、こわ」


:なぜか否定できないのが恐ろしいポイントよな

:こわ

:しかしながらこの配信者はダンジョンに潜る模様

:草


 そんな話をしながら潜るはA-1と呼ばれる最高難易度のダンジョン。

 普通、B級である私では決して潜れないのだが、なんと今回は特別にと尾間さんが部下を酷使してゴリ押しした結果潜る資格だけは得たのだ。

 なんでそんなこと知ってるのかって?

 そりゃあ、尾間さんが直接ニコニコ笑いながら教えに来てくれたからに決まってるからだろ。

 暇なのだろうか?あの人は。

 トップの人間に従う人間は大変そうだな、と小学生並みの感想を抱いたのは内緒だ。

 うん、その、なんかごめん。

 なんて内心で謝りつつ、ゴウンゴウンとダンジョンエレベーターに揺られる。


「ダンジョンエレベーターって凄いですよね。1層から9層までぶち抜いているんですよ?凄い技術力じゃないですか?あと、お金もすごいかかってそう」


:建設費用10兆円だってよ

:国民の金が溶けてく

:税金やばすぎィ


「それはそう。税金やばいですよね。私なんて給料の3割4割が税金で飛んでってるらしいですよ。特にダンジョン関連の予算で税金がバカかけられてるらしい。その金があればスパチャが出来るのに・・・・・・」


:スパチャwww

:税金が無ければスパチャが出来るという狂気の発想w

:狂っていると思うけど俺も同じだからなんも言えねえww

:冒険者って儲からんの?


「ふふふ、キッズ諸君には分からないだろうが冒険者って全然儲からんのだ。装備とか魔力回復薬とか、色々初期投資が必要なんです。ですが、初期投資しても全く儲からないなんて事があるから冒険者は不思議なんです。ちなみに私はどっちかと言うと趣味的な感じで潜ってて、小銭が稼げればいいなー程度でやっているので金は全く入って来ません」


:それは良かった

:せちがらいのうw

:社会の闇

:初期投資しても利益が投資額を上回らないのはなあぜなあぜ?

:マジであるあるなんよなwwww

:キッズ諸君にはまだ分からない大人の話www


 と、そんな感じでくっちゃべっているといつの間にかA-1第9層に到着していた。

 ダンジョンエレベーターは冒険者が攻略に際して物資の補給がやり易いように、あるいはすぐに目的のボスを倒せるように、という目的で国民の莫大な血税を湯水のように溶かした結果設置された公共施設である。

 まあ、普通に公共施設っつっても利用料金はバカ高いけど。

 ちなみに具体的な金額を言うと、一層ごとに5000円かかる・・・・・・。

 くくく、気づいてしまったか・・・・・・ここまで来るのに4万5千円もかかっていることに。


「えー、はい。到着しましたA-1の第9層。史上最強最悪、そして誰も攻略できていない階層です」


:遂に来たか

:死なないで

:本当に大丈夫か?

:やばい気配してるゾ


「大丈夫です。この層を攻略するために真面目に用意してきましたから。ほら、これ見てくださいよ」


 そう言って見せるはマナポーション10瓶。そして回復ポーション10瓶。

 

「これだけあれば魔力も足りると思うし、回復も足りるでしょ」


:は?

:はい?

:本当に言ってます?

:は?

:草

:初心者かよw


「え?なんか私やらかしました?」


:はい、普通に足りませんw

:出直してください

:9層舐めまくってんの草生える

:明らかに足りない

:トップランカーは合わせて50瓶ぐらい持っててるよ


「50瓶!?いや、普通に持てないじゃないですか」


 ポーションは大体1瓶でヤ○ルトほどの大きさがある。 

 戦闘という激しい動きをする冒険者という仕事において、嵩張るというのはとても大きなデメリットな上、普通に死ぬ要因にもなりかねない。

 

:え?

:アイテムストレージに入れるんじゃ?

:常識ですけど?


「ああ、アイテムストレージね。あれ高すぎて買えません。一個100万円って舐めてるんですか?無理でしょ、あれ買うの」


 存在自体は知っている。 

 そして、あったら物凄く便利ということも知っている。

 でも、知っていても金がなければ別だ。

 新社会人にとって100万円というのはあまりにも高額すぎた。

 故に金が無いのだから、我慢するしか無いだろう。


:だめだこりゃw

:とち狂ってやがるw

:今までどうやって生きてきたん?

:舐めてるのは主の方wwwww

:ガチで草


「まあ、ともかく。ポーションに頼っているようでは冒険者はやっていけませんよ。って訳で早速攻略始めていこうかと」


:フラグ一級建築士?

:まあ、頑張れよw

:ヤバくなったら逃げろよ?

:なんだこの人(困惑)

:やばww

:イカれてるwwww

:おもろすぎwwwww


 てな訳で私はA-1第9層に足を踏み入れた。

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