第2話

「こ、こんにちは?聞こえてますか?」


:コメントはありません


 まあ、うん、分かってたさ。

 こんなぽっと出の人間がいきなり配信始めたところで視聴者が付く訳がない。

 そもそもダンジョン配信など腐るほどあるのだから、わざわざ私の何処の馬の骨かも分からない人間の配信を除く奇異な人間などいるはずが無いのだ。

 それに、もう既にダンジョン配信は世の中に腐るほど溢れているのだ。


「まあ、仕方がないから始めるか・・・・・・」


 今は数あるダンジョンの中でもそこそこな知名度を持つダンジョンである『D-18』に潜っている。

 日本には数多くのダンジョンが存在し、その一つ一つに名前を付けるのは面倒だ、って事で鉄道と同じ様な方式で名前を付けられている。

 ちな、このダンジョン一見、中級者向けに見えるのだが、実は初見殺しのギミックや魔物が結構いて中級者向けの皮を被った上級者向けダンジョン、なんて呼ばれている。

 まあ、報酬が美味くて、モンスターが他のダンジョンに比べ多く魔石を落とすためかなり人気のダンジョンだったりする。

 危険度はおおよそB級とされていて現状B級冒険者である私が行けるダンジョンの中で最も難易度の高いダンジョンだ。A級以上の冒険者になると目立ちすぎて、というかより詳しい個人情報が必要になってくるので、副業してるのがバレたくないため資格が取れずにいた、というのが真実であるのだが。


「ふう、と言うことで始めまーす。ダンジョンRTA」


 ──ダンジョンRTAとは何か?

 そんな質問を受けた際にはこう答えれば良い。

 ダンジョンをいかに早く攻略するかという競技である、と。


 RTAとはリアルタイムアタック、という意味なのだが、まあ、ダンジョン攻略というリアルでタイムアタックしているのだからゲームと違いただのタイムアタックだろ、なんて鋭利なツッコミをしてくる奴は・・・・・・知らん。

 ガンジーに助走させて殴らせとけば良い。

 

 と言う訳でこのダンジョンRTAという競技なのだが、とても有名なジャンルであったりする。

 まあ、当然だ。

 配信というジャンルである以上、ガチ勢とエンジョイ勢に配信者は分けられるし、ガチ勢ならば如何にしてダンジョンを攻略するか、というテーマになるのは必至である。

 そして、ダメチャレや装備解説、またそれに加えてRTAが人気のジャンルとなったのだ。


 なので、配信で有名になるにはどうするか?なんて考えた末に私は気づいた。

 ──その道で一番になればいい、と。

 だから今回はRTA、それもそこそこ有名なダンジョンである『D-18』で世界一位を目指そうって訳だ。

 

「てな訳で今回は世界一位を目指そうと思うんですけど、ルールはAny %、つまりはなんでもありでやって行こうかと。まあ、細かなルールとかどうでも良いと思うんで早速始めますね」


 タイマー用意。

 よーい、ドン。


「身体強化、《俊敏》発動!」


 青色の魔力オーラが脚を包み、脚力が上昇された。 

 一歩踏み出すだけで10メート進める。

 しかし、これではまだ足りない。

 

「多重発動」


 再び《俊敏》を発動し、脚に付与。

 本来ならば脚をぶっ壊しかねない危険な行為なのだが、今回はRTAって事で心置きなく付与する。

 

「発動、発動、発動!」


 5層ほどで私の魔力出力限界を迎えたため、ここでストップ。

 地を蹴り、進んでみるとランボルギーニもびっくりな速度で加速した。

 計算にしておおよそ1秒にして100メートルの加速だ。 

 数秒でスーパーカー程の速度に到達する。

 

「良い子のみんなはやっちゃだめだからね!私の場合はタイムを縮めたいので物理結界を貼ってません。なので壁にぶつかればミンチになります!真似しないでね!」


 この加速法、脚にとんでもない負荷が掛かる。

 どのくらいかって言われたら脚の骨が一本残らず粉砕するレベルである。

 まあ、そこは回復魔法を同時に施すことでなんとかカバーする。

 

 ちなみに、私の場合だと世界レベルを狙うには出力限界まで身体強化と回復魔法を掛けなければならないため物理結界とかは張らない。

 だから、壁とか障害物に衝突すればミンチになってしまうのだ。

 おー、こわ。

 なんて事にならないために毎日物理結界なしで練習してきたのだ。本番でミンチになって血肉を視聴者に晒さないためにね。


「まずはこのダンジョン構造の説明をしますが!このダンジョンは全部で4層あります!縦には短いですが、横に長いタイプです!だから、今回の場合では身体強化がすんごい生きてくるんですよね!」


:なるほど


 お!?

 なんか一人視聴者ついてるんだけど!

 やばい、すごい嬉しい!

 

 なんて感動しているとすぐにボス部屋が見えてきた。


「では!ボス攻略ですが!この層のボスは蛇です!攻略は・・・・・・こうします!」


 速度を維持したまま突撃、ボス部屋の前の扉を手持ちの巨槌を振り上げ叩き開ける。

 そして、そのまま踏み込み部屋の中心に佇む蛇に向かって先ほど振り上げた巨槌を慣性のままに体ごと一回転させ、ぶつける。


 ゴギャン!


 何か、肉がひしゃげる音が響き、ボスが絶命した。

 まあ、当然である。

 スーパーカーを超える速度+巨槌での一撃だ。

 ワンパンで沈むのは当然である。

 

「よし!次の階層!」


:は?早すぎじゃね?

:マジで世界一位になれるタイムじゃん

:てか、ボスワンパンしてるんやが、やばw

:拡散するは


 その時、私はドーパミンが脳に満ち満ちていたためコメント欄が動き始めた事に気づかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る