第17話 招かれざる攻略者

【注意】


この物語はフィクションです。


登場人物や団体は架空の人・組織であり、仮に名前が同じでも中身は似て非なる想像上のものであることをご理解下さい。


よって、自衛隊やらアメリカやらバチカンやらバンバン登場させます。



これ、あらすじにも載せることにしました。



以下、本編をお楽しみ下さい。



――――――――――



 常世田達は、ボス部屋の中から千秋の悲鳴が聞こえたことで、慌てて扉を開いた。ロックは解除されており、新庄が1番乗りで部屋に飛び込む。


 新庄はシラヌイの姿を見て、不審者と断定した。新庄は戦闘の構えをとる。


「誰か!?」

「おーっとっとお。新庄しんじょうほむら。わたくしは敵ではありませんよ? 招かれざる攻略者さん」


 90度横になった仮面の奥に、わずかに真剣な表情のシラヌイが見えた。


「新庄さん、こいつはシラヌイ。仮面がなんでこうなったのかは知らんけど、『運営』の使いらしい」


 そう言いながら、常世田はシラヌイが新庄の名前を知っていたことに違和感を覚えた。


 服部はシラヌイをスルーし、千秋に手を貸した。


「おつかれ。立てるか?」

「うん。ありがとう」


 一同は改めて千秋が門を攻略したことに驚いた。てっきりリターンリングで入り口に帰還したと思っていた常世田は、千秋の頑張りを精一杯労った。


「すげーじゃん! あそこ、床削てるけど、あの消滅の能力使ったの?」

「うん。でも必死だったからあんまりよく覚えてない」


 ミノタウルスが消滅した場所は、床が球体の一部のように削り取られており、新庄は、その大きさから千秋がプラズマボールを上手くコントロールしたのだと推察した。


「千秋、よくやった。それで? この男から報酬は貰ったのか?」

「ううん、まだ。この人大丈夫? 変態じゃないの?」


 全ては裏返しで横になっている仮面のせいである。誰もがそう思った。


「んー、まあ変態なんだろうけど、報酬はちゃんとくれるから大丈夫だろ」

「オーワオ、服部君辛辣ぅ」


 シラヌイはそう言いながら、どこからともなくメダルとスキルブックを出現させた。


「須賀千秋殿。あなたは頑張ってレベル1ダンジョンを攻略したので、このメダルとスキルブックを進呈します。ハイ、ドーゾ」


 シラヌイが報酬を差し出すと、千秋は恐る恐るそれを受け取った。


「あ、この本……これ、なんかふざけてるところありませんか? もっと真面目にやって欲しいんですけど」

「オー、至って真剣デース」

「何がだ! 『脱糞だー』とかふざけてるにも程があるだろっ! いい加減にしろっ!」


 常世田が割と真剣にキレる。


「オーマイガー。あれを獲得したのですか?」

「そうだよっ! 無効にしてくれよっ!」

「それは無理デース。もっとSSSランクのスキルを獲得したことを喜んでクダサーイ。ではわたくしはこれで」


 シラヌイは逃げるように旋風になって消えていった。


「あ! あの野郎! 逃げやがった!」




 ここにはもう用はないと判断した新庄は、チームに撤収を指示した。

 それと同時に、右手を上にして白金製の無線機を作り出した。それは全てのパーツが白金で精密に設計、構築された小型無線機で、新庄は慣れた手付きで外の自衛隊の無線周波数に合わせる。


「こちらアルファ。回収班、応答願います」

『こちら回収班。ご無事ですか? 送れ』

「皆んな無事だ。13階ボス部屋にまだクリスタルが残っている。至急回収されたい。送れ」

『了解した。すぐに向かいます。終わり』


 外に控えていた突撃班、回収班、救護班などが忙しなく動き出す。皆エリートで、その動きには寸分の無駄もない。

 無線連絡から10秒後には、回収班は突撃班を伴い階段を駆け上っていた。


「さあ、帰ろう。外に出たら少し休憩だ」


 攻略組は、途中、回収班とすれ違った。彼らは真剣ながらも優しい表情で彼らを労った。

 常世田は、彼らの目的である『クリスタル』について新庄に問う。クリスタルは、ボスの出現ステージに設けられた柱の先端に浮いている謎の物体だ。


「あのクリスタル、回収してどうするんです?」

「あんな超常現象で浮いている物体、科学者が欲しがらない訳がない。『門』は研究材料の宝庫だ。できる限り回収するさ」

「んで、高く売り付けるんでしょ?」


 服部がニヤニヤしながら自衛隊が資金調達を目論んでいると踏んだ。


「人聞きが悪い。民間に渡すのは全ての研究が終わってからだ。その時、価値があるとしたら、それを手にしているのは自衛隊だ。希少価値のあるものは売らない。売るのは大した価値もない小物だ」


 階段を下りながら、千秋が素朴な疑問を投げかける。


「外国はどう見てるんでしょうか」


 その質問に、新庄は数秒黙ってから答えた。


「既にアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスが外交官を派遣している。特にアメリカは早かった。奴等はいつでも軍を動かす準備があるそうだ」

「バチカンは?」


 服部は、ミーシャから聞いた、『天使と悪魔の気配』という話で、バチカン市国が何らかのリアクションをすると思っていた。

 日本人にはピンと来ないが、バチカンは悪魔に敏感である。本物の悪魔祓いエクソシストが日夜、悪魔と戦っており、バチカンには何体もの悪魔が収容、管理されているのだ。


 中には強力な悪魔も収容されており、その気になればいつでも脱走できた彼らは、この『神々の試練』が原因で、日本に押し寄せた。


「バチカンは今のところ沈黙している。だが、このまま黙ってはいないだろうな」


 彼らは知らなかった。著名な悪魔の脱走を追いかけて、数名のエクソシストが日本に来ていることを。

 彼らには彼らの戦いがあった。そして後に、その運命は常世田達と交錯するのだが、それはまた別のお話。


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