第15話 戦うということ


「千秋、今のような綺麗事を続けられるほど、この先は甘くないぞ?」


 それは千秋にもわかっている事だった。千秋にとって、先のようなゴブリンとのコミュニケーションは、これから始まる殺し合いの前の、せめてもの罪滅ぼしだったのだ。


 この手で殺す。それを理解していても、命乞いをする者を許す心を忘れてはいけない。それが千秋の決意だった。


「次の部屋、私もやってみます」


 一行は、階段を登り、5階フロアへと入って行った。そこはフロア全体がオフィスのようになっており、所々、柱が立っているが、ゴブリンの姿は見えなかった。


「んー、ここはクリアっすかねー」


 常世田がデスクの間を歩くと、宝箱を発見した。


「あ! ここ宝部屋だ!」


 4人は手分けして宝箱の見落としがないか探索した。運が良ければ1500万円である。常世田は目を血走らせてデスクやパーテーションの影を調べた。

 ちなみに、常世田以外の3人は結構お金を持っているので、あまり力が入っていない。


 結果、4つの宝箱を発見。箱を1箇所に集め、順番に開くことにした。常世田はビビりなので、ミミックに警戒して腰が引けている。


「さて、んじゃ俺から開けますか」


 服部は、1人ずつ自分の宝箱を決めて、何が入っていても恨みっこなしというルールを提案した。

 皆、それに賛同し、言い出しっぺの服部が最初に開けることになった。



ガコッ、ギィーー



「んー? 何だこれ」


 そこには、クリスタルのような、半透明の水色で、中心がキラキラと揺らめく菱形の物体が入っていた。

 全員、これが何なのかわからず、持ち帰って神々に鑑定してもらうことに。


 皆、なんだろね。と言いながら、次の順番を決める。次は千秋が開けることになった。



ガコッ、ギィーー



 千秋の宝箱には、現金200万円が入っていた。100万円の札束が2つである。


「おおー、現金だ。偽札じゃないよね?」


 千秋は200万円を手に持って少し喜んだ。500万円の貯金がある彼女にとっては、大喜びする程の金額ではない。


「じゃあ、次、俺ね」


 常世田はビビりながら宝箱を開けた。


 すると、そこには回復薬が入っていた。常世田は既に持っているものなので、何とも言えない気持ちになったが、新庄は『いくつあっても困らない』と言って、大事にするよう言い聞かせた。



 そして最後の新庄の宝箱には――



――小さい王様が入っていた。



 新庄は宝箱の底に立って自分を見上げる王様と目が合った。目が合ったと言っても、王様の目はまるで線を一本引いただけの細目だった。しかし、なぜか新庄には絶対にこっちを見ているという確証があった。


 その手足は短く、タプタプの腹に2頭身の姿は、まるでデフォルメされたアニメのマスコットのようだった。

 彼は立派な王冠と赤いマントを装備し、その他はぬいぐるみのような生地で全裸である。


 新庄は気付いた。


(な、何かもぐもぐしている)


 髭で口が見えないが、確かに顎と頬っぺたがもぐもぐしている。

 王様はもぐもぐを終えてゴックンすると、新庄に向かって話し出した。


「アイン・デメス・パゴール11世であるも」


(も?)


 新庄はドキドキしながら耳を傾けた。


「お主は余の家臣であるも。連れていくも」


 その様子を静観していた使徒組は、ついに笑いを堪えきれなくなり、爆笑し出した。


「ブッ! ブハハハハハ!」

「なんだこれ!? フフッ! なんだこれ!?」

「やだ可愛いー! アハハハハ!」


 新庄は全長40センチほどの王様を抱っこすると、王様は嬉しそうに『ふぉっ、ふぉっ』と笑った。


 彼らは知らなかった。この王様が『使い魔』に分類される超レアアイテムであることを。使い魔は飼い主を守るように戦闘に参加し、どの使い魔も強力なスキルを持っている。


「アハハ、はあー、はあー、新庄さん、最高っす」

「常世田、馬鹿にしてるとぶっ飛ばすぞ?」


 一行は笑い疲れて次の部屋に向かうことにした。常世田は、もう一部屋ゴブリンが数体いるのではないかと推察した。


 それは、7階に上がった時に的を得ていたことが判明する。そこには最初のゴブリンの部屋と同じ、特殊な扉が待ち構えていた。


「さて、千秋、心の準備はいいか?」


 千秋は無言で頷いた。目標は1体破壊すること。どんなにグロテスクでも吐かないこと。自分の力を信じることだった。


 新庄は勢いよく扉を開いた。そこには4体のゴブリンが、部屋のあちこちを歩き回っていた。


 すかさず新庄が奥の1体に飛び掛かる。常世田はそれを見て、その隣の1体に襲いかかった。


「千秋! そこの1番近いやつをやれ!」


 そう言いながら、服部は少し離れた1体に向けて右手をかざした。メキメキと木が生え、物凄い勢いでゴブリンに向かって伸びていく。


 千秋はがむしゃらに念じた。ゴブリンを破壊する。それだけを考え、自然と右手をゴブリンに向けていた。


(壊す! 壊す! せめて苦しまないように!)


キィーーーーーーン


 すると、彼女の手のひらに小さな光の粒が発生した。それは強い光を発しているからそこにあるとわかるような微粒子であり、部屋を明るく照らすほど光ったそれは、猛烈なスピードでゴブリンの頭部に向かって飛んでいった。


 他のゴブリンを含め、部屋が明るくなったことに驚いた彼らは、その光源に目を奪われた。


 光の微粒子はゴブリンの頭部を消滅させ、その勢いのまま部屋の壁を綺麗に丸く貫き、外の隣のビルの壁まで貫通した。


 ビルに開いた穴は直径2メートルほどで、光の微粒子は、隣のビルの内部に巨大なプラズマボールを発生させた。


バババババババ!


 それは直径20メートルほどの球体で、青や赤などの激しいプラズマを放出し、隣のビルの上半分を消滅させた。


 外から見ていたニコたちは戦慄した。シヴァは、千秋の無事を祈りながらも、自分が狂気の笑みを浮かべていることに気付かなかった。


 くして、その部屋のゴブリンは一掃され、常世田達は壁の穴から見える『破壊』の跡に、冷や汗を流すのだった。


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