第10話 群れの強み
「現場の高橋です。今、自衛隊により怪物の死骸が運び出されようとしています。怪物は獣医により死亡の確認がなされていて、自衛隊はこれを百里基地に輸送すると発表しました」
リビングのテレビでは、どのチャンネルでも常世田が攻略したダンジョンの話題で持ちきりだった。
他にも攻略されたダンジョンは数多くあるが、モンスター――中でも門の主が死体として残っているのは、彼が攻略した茨城県笠間市のダンジョンだけだった。
ダンジョン内のモンスターは、死亡して一定時間が経つと消滅するという情報があり、その例外である件の門の主は、解剖――ひいては弱点を探るなどの研究の余地があるのだ。
「ほーん、腹減ったなー。お迎えまだかなー」
「くふふ、空腹に苦しむとは。虚弱よのうフハハ」
2人はタバコをふかしながら、ソファでだらだらとテレビを眺めていた。
「高橋さーん、怪物に目立った外傷とかはないんですかあ?」
「えーとお……ちょっとここからではわからないですねー。えー、近くで見たという方の証言では、胸の辺り、また、左目から出血していたという話も伺うことができました」
「なるほどお。獣医さんの見解では、死因はなんだったんでしょうか」
「死因は頚椎損傷とのことです。これはレントゲンなどを撮ったわけではないのですが、警察官の証言で、常世田氏が怪物の頭部を――」
ピーンポーン
「お! きたきた!」
「さて、
2人はスリッパをパタパタさせて玄関に向かった。常世田の足取りは軽く、きっと美味いメシが食えるだろうと期待に胸を膨らませている。
生活保護だった常世田にとって、外食などご馳走であり、昼メシに続いて晩メシまでも贅沢ができるとは思っていなかった。
玄関を開くと、黒崎と新庄が立っていた。自衛隊にしては珍しい5分の遅刻である。
「待たせたな。行くぞ」
「なんかあったんですか?」
「ああ、とある攻略者も誘ったんだが、発作的に極度の恐怖に襲われてしまってな。門の主を倒した時の感情が定期的にフラッシュバックするらしいのだ」
「まじかー。かわいそう」
食事会には、月輪陸将をはじめ、新庄、黒崎の他に、3人の攻略者が招かれていた。
常世田とニコは、移動する車内で常世田以外の2人の特徴について新庄から話を聞いた。
『
33歳。喫茶店オーナー。裏の顔は殺し屋。長野県松本市の自宅を出たところを使徒としてスカウトされた。
契約者は『ミシャグジ』縄文時代から既に存在していた古代の神である。
使徒としての能力は『自然を操る』という、どうしようもなく漠然としたもので、漠然だからこそ恐ろしい自然現象『地震』も意図的に起こせる。
『
25歳。研究員。茨城県つくば市の研究所で、反物質の新たな特性を発見したところを契約者に拉致された。
契約者は『シヴァ』ヒンドゥー教の破壊神。絶大な力を持ち、あらゆるものを破壊する。
使徒としての能力も『破壊』。手で触れなくても、見ただけで破壊する。
「その須賀さんが恐怖症になったと?」
「そうだ。彼女は初めてのダンジョン攻略で切り札の『手助け』を使用したらしい。契約者が須賀の命の危険を感じたそうだ。須賀はシヴァによる徹底的な破壊活動を目撃してしまった。現場は血の海と化し、その光景がトラウマとして彼女の心に焼き付いた」
常世田は、確かにゴブリンを斬った時、グロテスクだと感じていた。しかし、常世田には映画やゲームなどで、そういった映像の耐性がついていた。実物は画面越しに見るものとは一味違ったが、吐いたりトラウマになったりするほどではなかった。
「2人とも
ニコは警戒した。これから、その神々と会うことになるのだ。最悪の場合、戦闘が起こる可能性も否定できない。ミシャグジはまだ話が通じそうだが、シヴァは怪しい。
ただ、現時点で、この基地が破壊されていないことが、シヴァにも理性があるのだということを証明してくれていた。
常世田たちのクルマは、繁華街を出て基地本部へと入っていった。本部は慌ただしく右へ左へ足早に任務に勤しむ隊員ばかりで、のんびり晩ご飯を食べる雰囲気ではなかった。
「ここからは歩きだ。付いてこい」
「新庄さん、ひとつ確認なんだけど」
「なんだ?」
「俺たちを他の使徒に会わせるってことはさ、仲良くしましょうってことでいいんだよね?」
「そうだ。これは陸将から直にお願いすることだが、君たちには組織的にダンジョン攻略に臨んでもらいたい」
「チームってこと?」
「ああ、君ら3人と私の4人チームだ」
常世田は新庄の真の姿を知らない。この時は自衛隊の装備で臨むのだろうと考えていた。それでも、戦闘訓練を受けた自衛隊員が仲間になるのなら、心強いと感じていた。
――本部。応接室。
「失礼しま――」
「しーーー」
新庄が扉を開き部屋に入ると、上半身ハダカで、首や腕に幾つもの装飾品を装備した男が、人差し指を口に当てて『静かに』の合図をしていた。
下半身はキルト――男性用巻きスカートを履き、足首にもアクセサリーを備えている。
一目で『強い』とわかる屈強な身体つきであり、しかし、その目は優しく、彼にお姫様抱っこされて眠る1人の女性を見つめていた。
「いま寝たんだ。少し静かにしておくれ」
シヴァだ。常世田はそう感じた。そして彼の腕の中の女性が『須賀』なのだろう。
部屋は広くリビングダイニングのような家具の配置で、ダイニングテーブルには、見るからにチンピラ風のストライプスーツの男と、その男のお膝でプリンをモリモリ食べる幼女がいた。
常世田は、考えたくはなかったが、このペアが『服部』と『ミシャグジ』なのだろうと推察した。
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