第9話 ルール
――特殊作戦群。極秘基地『
地下施設は広く、まるで大都市のように大型ショッピングモールや映画館、ゲームセンターにパチンコ屋まで幅広い分野の建物が密集していた。
今は午後5時過ぎだが、照明を上手くコントロールして夕方のような明るさになっている。
常世田達が乗る装甲車は、繁華街の一角にある居住区へ向かっていた。
「なんだと? 毎日なのか?」
相変わらず顔色ひとつ変えない新庄が、めずらしく驚いたようなリアクションで尋ねる。
「そうだ。毎日午後3時。日本中のどこかで『門』は開く。門の数は『使徒』の数と同じ。門が作られる際、必ず人間が作った構造物が一つ破壊される。それは使徒が最後の1人になるまで続き、最後の門が攻略されると、『試練』は終わる」
新庄は何も言わなかった。常世田も詳しい説明を聞くのは初めてなので、あまりに理不尽なルールに呆然とした。
皆が沈黙する中、運転手の黒崎が口を開く。
「門の怪物は外に出てくるんですか?」
「積極的には出てこんが、出られる仕組みにはなっている。門の中の敵は使徒を優先的に狙う。仮に外に飛び出しても、使徒が役目を全うしている内は、民間人に被害が及ぶことはないだろう」
すると、新庄は重たい口調で真実を告げた。
「門の怪物より、その『使徒』の方がよっぽど厄介だ。既に14人を逮捕している。わかっている限りで、逃亡者は3名。いずれも炎や氷といった自然現象を操る能力者だ。煙は大人しくて助かった」
常世田は許せなかった。力を持つものは、その力の強大さに比例して寛大でなければならない。そう思っている。
しかし、その一方で、逃げた能力者にも、何か事情があったのではないかとも思っていた。
「いきなり銃口向けたとかじゃないですよね? あれやられたら、誰だって反抗したくなりますよ?」
「人聞きが悪いな。最初に牙を剥いたのは『
「あ、控えめに言ってクズだわ。ニコ様、そいつ止めないとダメだ。まだ北海道にいるかな」
新庄は、常世田の反応が自衛隊の意向に合致していると判断した。この男ならやってくれるかもしれない。
「怖くはないのか? 街を吹き飛ばすような凶悪犯だぞ?」
「ハハッ、俺は煙だもん。炎なんて怖くねーよ。今日の6本腕の鬼の方がよっぽど怖かったね」
それを聞いてニコがアドバイスを贈る。
「よく言った。貴様は煙だ。それを忘れるな」
装甲車は居住区のゲートをくぐり、碁盤の目のような住宅街へと入って行った。
どの家も似たようなデザインで、綺麗な庭付きの二階建てが目立つ。交差点にはアルファベットと数字の看板が設けられ、迷わないように工夫してある。
「はえー、綺麗なとこだなー」
「ここだ。G23番地の1号。覚えておけ」
黒崎と新庄はクルマから降りると、白い外壁の綺麗な家に常世田たちを案内した。
「19時に迎えにくる」
「あー、偉い人と晩御飯だっけ?」
「
「そしたらそん時さ、板垣さんに預けた物、返してもらいたいんだけどいいかな」
「ああ、もう記録は終わっているだろう。食事の時に返すよう準備しておく」
新庄は常世田に家のカードキーを渡すと、足早に去って行った。
「なんか、強そうな
「貴様にはアレが人間に見えたのか?」
「え……なにそれ」
「我には怪物に見えたが」
この時のニコの見え方が実際にどうなのか、近い将来、常世田は目の当たりにする。
それは自衛隊が5年前に完成させた人間兵器。がん細胞から抽出したテロメラーゼを人工的に改造し、人に移植することで実現した『不死身の兵士』だった。
新庄はその被験体として5番目の移植成功者だ。特筆すべきは、彼女の移植手術に当たって初めて『白金』が使用されたことで、これが自衛隊の予期せぬ突然変異として、彼女の体に無限増殖する白金元素が確認された。
新庄は老いる事も死ぬ事もなくなり、その体は白金を自由自在に操る金属人間になったのだ。
「おおー、綺麗なリビングだなー」
「寝室は3部屋か。我は寝ないので貴様が自由に使え」
「え、神様って寝ないの?」
「寝ることはできるが隙が多い。油断大敵が我の信条だ」
「えー、なんか俺も寝にくいな……」
「ふふ、人間風情が神の領域の心配をするな。生意気だ。大人しく寝ろ」
新しい住居は、家具から家電まで何でも揃っているお手軽マイホームだった。
穏やかなリビングでニコから聞いた『門』攻略のルールは以下の通り。
・使徒が門の主を倒し攻略すること。
・門の主以外の部屋は何人で挑んでも可。
・門の主の部屋に入れるのは1人。(複数人で入った場合は、最初に入った者のみ挑戦でき、後から入った者は門の入り口へ転送される)
・門の主を戦闘不能にしたものが攻略者。(門の主が自発的に逃げたり降参した場合も勝利とみなす)
・制限時間は無し。攻略しない限り、門は永久に残る。
・1ヶ月間、門を攻略しなかった使徒は、その能力を無効化し、使徒の資格を剥奪する。
他にも『契約者』側の禁じ手などのルールがあるが、常世田に伝えられたのは、現時点で最低限知っておくべきものだった。
リビングでぷかぷかとタバコをふかす常世田は、改めて自分の立場を理解したのだった。
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