第8話 秘密基地

 常世田を乗せたヘリコプターは、常世田の地元、茨城県から山梨県へと飛行していた。



――ヘリコプター内部。



「所持品をお預かりします」


 常世田は、右手にスキルブック、左手にメダルを握っていた。それらを隊長の板垣に渡す。


「他にはありませんか?」


 常世田は心拍数が上がった。胸ポケットにはタバコとライター、ズボンのポケットには謎の小瓶、内ポケットには100万円、ここまではいい。


 問題は、懐にベレッタが収納してある。


 常世田はベレッタと弾倉、ホルスターを煙に戻した。ボフッとジャケットから煙が上がり、常世田に銃を向けた2人の隊員が血相を変えてトリガーに指を掛ける。


「ヘイ! イージー! イージー! 撃たないでもらえると助かるなー。ただの煙だよ。あんたらに危害は加えないって」


 板垣はすぐにタバコの臭いだとわかった。体からタバコの煙を噴出させる常世田に異常性を感じる。彼らは攻略者が何らかの異能を備えていることを知っていた。


(タバコ……? まさかスモ〇カー大佐?)


 板垣はワン〇ースのファンだった。


「常世田さん、単刀直入にお伺いします。何の能力ですか?」

「俺はタバコの煙を自由に操れる。まだ練習中だから、集中してないとできないけどね」


 そう言いながら、常世田は宝箱から獲得した首飾りなどを板垣に渡した。


「タバコ吸いてー。ここで吸っていい?」

「ここは禁煙です」

「かてーなー」


 そんなこんなで、ヘリコプターは山梨県上空に辿り着き、青木ヶ原樹海のど真ん中に滞空する。

 そのヘリコプターの機体後方には、テールローターの前に腰掛け、葉巻をふかすニコが、お気に入りのハットを飛ばされないように手で押さえていた。


 ニコは樹海を見下ろしていた。すると、樹海のど真ん中の木々がザワザワと音を立て、大きな円の形に地面が隆起すると、その頂上がまるで観音開きのように開いて、ヘリコプターの真下に穴を作った。


 その内部は照明でヘリコプターの着陸を誘導するように灯されており、ヘリコプターはゆっくりと穴の中へ入っていく。


「へー、樹海にこんな施設があったなんて……」

「くれぐれも内密にお願い致します」


 縦長のトンネルを降りていくと、やがてドーム型の巨大な格納庫に辿り着いた。そこには幾つものヘリコプターや戦闘機、大型の輸送機などが格納されていた。


 格納庫は慌ただしく自衛隊員が様々な作業をしていて、場内アナウンスも忙しなく専門用語で何かを通達している。


 常世田が乗るヘリコプターは、一台の装甲車――light armored vehicle――が待機する着陸地点へ向かった。


 そこには、足を肩幅に開き、休めの姿勢でヘリコプターを見つめる男性と、おしゃれなパンツスタイルのレディーススーツを着こなす女性が立っていた。


 ヘリコプターが着陸し、側面のドアが開かれる。隊長の板垣は、キビキビと女性の前に小走りで向かい、ビシッと敬礼して申し送りを始めた。


「第1中隊! 攻略者確保! 常世田龍泉をお連れしました! 能力はタバコの煙を自在に操るとのこと! ご注意願います!」


 板垣は、スーツ姿の女性が咥えタバコをしていることに気付き、本来なら必要ない能力についての報告をした。


 スーツ姿の女性は、その鋭い目つきで常世田を一瞥いちべつすると、ぷかっとタバコをふかして板垣に指示する。


「よろしい。下がれ」

「はっ!」


 ここで、板垣がヘリコプターの上部に座っているニコに気付く。


「誰か!?」


 板垣はアサルトライフルを構え、正体不明の黒いスーツに狙いを定めた。この距離ならヘッドショットも外さない自信がある。


 ニコはゆっくりとヘリコプターから飛び降り、地面から50センチほど浮いた位置で浮遊した。


「そう敵意を向けるでない。我は常世田の保護者だ。『契約者』と言った方が、貴様らには通じるかな?」


 ニコはハットを左手で整え、この場で1番実力がありそうな、スーツ姿の女性を見据えた。


 スーツ姿の女性は、タバコをふかすと、自己紹介を始めた。


新庄しんじょうほむらだ。特殊作戦群本部、第2部所属。

1佐である」


 彼女に対する常世田の第1印象は、極道の妻である。まるで何人も殺してきたかのような目つきは異常に鋭く、手足は細くモデルのような体型だが、鋭い刃物でも突きつけられているような殺気が、確かに彼女にはあった。

 また、腰まで長い黒髪も特徴的で、それ、洗うの大変だろ? と思うほど長く、彼女がタバコを手に持って吸う度にユラユラと揺れていた。


「タバコの煙……これを操れるのか?」

「ええ、まあ」

「やって見せてくれ」


 常世田は、新庄が吐き出したタバコの煙を操り、新庄から見て読めるように、空中に『よろしくおねがいします』と文字を作った。


「我はタバコの神。名前はニコだそうだ」

「へへへ、俺が付けたんだ。ニコチンのニコ様」


 新庄はピクリとも笑わず、真顔で2人を装甲車に案内した。付き人の男性が運転席に乗り込むと、新庄は助手席のドアを開けた。


「2人とも後ろに乗れ。居住区に案内する」


 装甲車は、ゆっくりと格納庫を離れ、長いトンネルの中へと消えて行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る