第7話 現実的な世間の反応

「あなたがあの怪物を吹き飛ばしたのですか!?」


 美人なリポーターが真剣な表情でマイクを向ける。後方にはカメラマンや照明スタッフなどがいて、なるほどテレビのこっち側はこうなっているのかと思った。


「あー、そうです。あれ、野次馬、近付かない方がいいって言って下さい。俺、ちゃんと殺したかどうかわからないっすよ?」


 すると、現場は騒然とし、野次馬で集まっていた人たちも、自らの危険があると知るや、門の主から20メートルほど距離を取った。


「失礼しました。わたくし、日の丸テレビの桜井と申します。日本の方ですか? お名前をお伺いしても……」

「ああ、訳あって髪の毛こんなんですけど日本人です。常世田と申します」

「とこよださん……珍しい苗字ですね」

「あー、よく言われます」



ウウーーーーウーーー



 その音は誰でも聞いたことのある緊急車両のサイレンだった。


 桜井の話では、日本のあちこちでここと同じような異変が起きており、被害の全容が掴めていないのだと言う。

 警察も消防もてんやわんやで、やっとここにも警察が到着したのだとか。


「おたくらテレビ? ここ崩れるかもしれないから早く出て!」


 警察の誘導に従い、外に出る。


 門の主が気になって近付いてみると、警察が怒鳴った。不用意に近付くなということなのだろう。


「君! 危ないから離れて!」

「いや、でもちゃんと死んだか確認しないと。これまた動き出したらとんでもない被害が出るよ?」

「う……いやしかし……!」

「大丈夫大丈夫。すぐだから」


 門の主はピクリとも動かず、大の字になって沈黙していた。常世田は、デカい頭を両手で掴み、力一杯、首を捻ってみた。


ゴキッ!


「あ、折れたな」


 それと同時に、門の主の体はブルンッと全身が痙攣した。6本の腕や足が大きく動いた事で、周囲の野次馬から悲鳴が上がる。


「やっぱ生きてた。危なかったね」

「首を折ったのか?」

「はい。たぶん脊椎動物だし、首折れば死ぬでしょ」


 警察はこの処置にどう対応すればいいのかわからなかった。これが猛獣なら殺処分も仕方がないが、腕が6本あるとは言え、人型であることが彼らの判断を鈍らせているのだ。


 すると、上空からヘリコプターの音が響き、シュルッとロープが落ちてきたかと思うと、明らかに自衛隊と思われる隊員が素早く降下してきた。


 最新のアサルトライフルを装備しており、他のエリアではそれが必要になる事態になっていることを察した。


「このの攻略者は君か?」


 常世田は、自衛隊員が既にこれを『ダンジョン』や『攻略者』と称していることから、日本政府がダンジョンの存在と、それを攻略する者の存在を認めているのだと知った。


「はい。俺がやりました」


 まるで自供のようになってしまったが、それを聞くや、自衛隊員は常世田にヘリコプターに乗るよう促した。


 ヘリコプターが地上に着陸し、側面の扉が開かれる。そこには、2名の隊員が拳銃を構えて待っていた。

 問題は、銃口の向きである。それは確実に常世田の頭部を狙っていた。


 穏やかではない。常世田には『逃げる』という選択肢もあったが、幼少期から正義感を持ち、悪い事などした事がない彼は、胸を張って銃口に向かって歩を進めた。


 おそらく別のエリアで『攻略者』が悪さをしたのだろう。超常のチカラを持ってしまったのだ。人によっては悪に染まるのも無理はない。


「自分は板垣と申します。この隊の隊長です」

「常世田です。銃を下ろしてもらえませんか?」

「申し訳ありません。基地に着くまでは辛抱して下さい」


 常世田はヘリコプターの内部で屈強な男たちに囲まれ、大空へ飛んでいった。




***




「貴様ごとき虫ケラが我に勝てると思ったか?」

「うぎぎ! くそっ!」


 そこでは神々の遊びの『余興』が繰り広げられていた。それは招かれざるイベントであり『禁じ手』として定められた『使徒に対する契約者の直接攻撃』だった。


 ニコは醜いハエの悪魔の頭部を踏み付け、余裕の表情で葉巻をふかす。足元のそれは、ベルゼブブと言われるキリスト教における悪魔だった。


 ベルゼブブは、自分の姿を見て怯え、戦おうとしない自分の使徒に辟易へきえきし、自ら常世田を襲おうとした。

 それを見ていたニコは、禁じ手に該当するとして、正当防衛を行ったのだ。


「ぐぐぐ! 貴様! 生まれて間もない弱小のくせに! 何故そんな力を持っている!?」

「ふはは。信仰を失った邪神がほざくな。古いから強大な力を持っているのか? 否。新しくても強大なものは強大なのだ」

「うぎーー! くそーーー!」


グシャッ!


 ニコは、シダバタ暴れるベルゼブブを踏み潰した。その瞬間、ベルゼブブの使徒はチカラを失い、元の普通な人間に戻った。


「正当防衛だ」

「ええ。ちゃんと見てましたよーん」


 ニコの背後には、シラヌイがいた。相変わらず仮面は上下逆な上に裏返しのままである。


「さて、あやつのメダルを回収せねば」


 ニコは常世田のヘリコプターが飛んでいった方向に飛翔した。



 それは富士山の方向。


 青木ヶ原樹海に向けて。


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