第6話 ボス戦



パァンパァンパァンパァンパァン!



「グオオオオオオオ!」



 常世田の先制攻撃は意外にも効果があり、門の主と思われる鬼は足と腹部にダメージを受け、唸った。


「あんだけ的がデカけりゃ当たるだろ!」


 常世田は走り、敵と距離を取りながら、まずは胸の辺りを狙って撃った。


パァン! パァンパァンパァン!


 門の主は、ズシン、ズシンと移動しながら常世田との距離を詰めるべく前進する。


 常世田も移動しながら撃っているので、先制攻撃のような有利な状況と違って弾を当てることができなかった。


「くそっ! 当たりゃしねー!」


 すると、門の主は、なんと走り出した。


ズンッ! ズンッ! ズンッ!


「うわーーー! 走ったーーー!」


 常世田は慌てふためき、逃げながらベレッタを発砲するも、1発も当たらなかった。

 否応なしに息が上がり、震える手で空になった弾倉を交換する。


 覚悟するしかなかった。


 やりたくないが、接近戦をするしかない。


 常世田は、願掛けの意味も込めてタバコを咥え、火を付けた。



「スゥーー、フゥーーー。クソ。やってやる」



 常世田はきびすを返して腰を落とした。映画で見た主人公の射撃姿勢を見よう見まねで実践する。


 それは功を奏し、門の主との距離は近づいたが、15発中8発が胴体に着弾した。すかさず銃を収納し、日本刀を創り出す。



「グオオオオオオオ!」



 門の主が6本の腕を振り回し、まるで竜巻のように左右から剣が飛び交う。

 しかし、動きはさほど速くは無かった。常世田は、それらの剣のうち、自分に当たると思われる1本に集中して防御した。


ガキイイイン!


 巨体から放たれた一撃は重かったが、常世田は歯を食いしばってそれを耐えた。

 そして動きが止まった門の主の足を、素早く斬りつけた。


 それは太い足を切断するほどではなかったが、奴の体勢を崩す一撃となった。


 門の主が膝を付いて頭を下げた瞬間を、常世田は見逃さなかった。


「しゃあ! オラーーー!」


 常世田が放った突きは、型は滅茶苦茶だったが、確かに門の主の左目を貫いた。


「グギャーーーーー!!!」


 門の主にも恐怖心や焦りといった感情があるのだろう。奴は6本のうちの3本の手に握られた剣を手放し、自分の顔を覆うと共に、常世田を殴った。


「ぐぶあっ!」


 常世田は吹き飛び、中央ステージの柱に背中を打ち付けて尻餅を付いた。


「はあ! はあ! はあ!」


 常世田は、自分がとことんタバコが好きなのだと再確認した。

 うめき声を上げ、吹き飛ばされてもタバコを咥えたままであることが、そう思わせたのだ。


(俺にできない事なんて何一つない! 俺は自由自在だ!)


 常世田はチリチリと音を立ててタバコに吸い付き、深く煙を吐き出す。



 それは常世田の想像力だった。



 吐き出された煙は、2メートルはあろうかという巨大な拳となり、まるで大きな両手でボクシングの構えを取るように常世田の前にファイティングポーズを作った。


 門の主が顔から赤い血を流し、片手で顔を覆いながら剣を拾う。


 そして常世田に向かって一歩踏み出した時。



ボゴオオオオオオ!



 巨大な煙の拳は、一直線に打ち出され、門の主を部屋の壁まで吹き飛ばした。


「うおおおおおお!」


 常世田が走り出し、ファイティングポーズを取ると、巨大な二つの煙の拳も同じ動きをする。


 常世田は連打した。腕が疲れて動かなくなるまで。門の主との距離は8メートルほどで、常世田自身の拳は届かないが、煙により創り出した巨大な拳は、確実に門の主を壁にめり込ませていく。


ボゴオ! バギィ! ズドオ!


「グゲッ! グボッ! グキャッ!」


「うおおおおらああああ!」


ボゴオオオオオオン!


 そして遂に、部屋の壁は破壊され、門の主はズタボロになって外の大通りに転がり吹き飛んだ。



「はあ! はあ! はあ! すぱーーー、ふぅーーー」



 外にはテレビの取材であろう報道陣や、野次馬たちがひしめき合っている。


「皆さん! ご覧下さい! 中からモンスターが飛び出して来ました! これは……! 飛び出してきたというより、あそこの男性が吹き飛ばしたといった方が正しいかもしれません!」



 門の主は完全に沈黙した。



「Congratulations! 素晴らしい!」



 常世田は、背後に仮面を付けた男が立っていることに気付いた。慌ててファイティングポーズを取る。


「オーノーノーノー! ワタシ敵じゃないネー」


 執事風のその男は、明らかに上下逆に被った仮面越しにカタコトの日本語を装っている。


(お前さっきの『素晴らしい!』はめっちゃネイティブだったろうが。しかも、それ前見えてねーだろ)


「あの、仮面、逆だぜ?」

「ええ!?」


 男は驚いた様子で仮面を裏表逆にした。


「違うそうじゃない。仮面の意味! 今ので素顔丸見えだったけどいいのかよ!」

「オー、別にいいでーす。わたくし、運営のシラヌイと申します。この度は『レベル1ダンジョン』のクリア、おめでとうございまーーーす!」


 どこからともなく指笛の音や歓声、拍手、色とりどりの紙吹雪が舞い落ちてくる。


「貴方にはあ、クリア報酬としてメダルとスキルブックを差し上げまあーーーっす! 注意。メダルは契約者に渡して下さい。スキルブックで得られるスキルはランダムです。ハズレを引いても恨まないでね」


(契約者……ニコ様かな)


 常世田はシルバーのメダルと、緑色の薄い本を手渡された。


 そこへ報道陣が駆け付ける。


「オー、面倒くさそうデース。わたくしはこれで」


 そういうと、シラヌイは風のように消えて行った。残された常世田は、押し寄せる報道陣に、非現実的な、程よい緊張感を覚えていた。


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