第5話 初めての虐殺
それは虐殺だった。
初めて振る日本刀は、その重みで叩き斬るのだということが、手の感触から伝わってくる。
常世田は学んでいた。
従って、構えと振り下ろすスピードが重要であると。
最初の1体は、日本刀の切れ味と恐ろしさを理解していなかったようで、特に避けるでもなく左肩から右肩まで一直線に斬れた。
ゴブリンは仲間が斬られたことに動揺したのか、動きが止まる。
常世田はマンガで見たことのある上段の構えを見よう見まねで実践し、2体目の脳天に振り下ろした。
日本刀はゴブリンの頭を両断し、その勢いで腹のあたりまで食い込んだ。
ここで常世田がテクニカルな動きを見せる。
2体目に食い込んだ日本刀を引っこ抜くべく、
その勢いで更に身を翻して身体を回転させ、後方に立ちすくむ3体目に横薙ぎの一撃を見舞う。
「うおおおおりゃーーー!」
3体目のゴブリンは我に返って尻餅を付いたが、時すでに遅く、奴の頭部は左耳から右耳へと両断された。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
終わってみれば一方的な殺戮だった。
常世田は日本刀を構え、2ヶ所の出入り口を警戒する。壁に背を預けて、しばらく息を荒くした結果、敵が襲ってくることはなかった。
常世田は2ヶ所の扉を閉めた。新しく敵が襲ってくるとしたら、奥側の扉だ。彼は奥の扉に背をもたれて床に座ると、タバコに火をつけて休んだ。
「フゥーーー」
部屋は幾つあるのだろうか。迷路のように入り組んでいたら探索は容易ではない。
いくつかの不安を拭うように、彼はベレッタの弾丸を沢山作った。
ゴブリン相手なら銃より日本刀がいいだろう。常世田はベレッタをいつでも出せるように、ホルスターを創った。
左脇には銃を収納し、右脇には予備の弾倉を二つ刺しておく。装弾数15発が3本もあれば、今のところ一つの部屋を攻略するのに十分だと思った。
「さて、次に行くか」
常世田は次の部屋を覗いた。そこには誰もおらず、壊れたデスクや椅子が散乱している。
「クリア、だな」
常世田は部屋を進み、奥の扉に手をかけた。そーっと扉を開けると、そこには長い廊下が続いていた。
1番奥には扉が見える。また、廊下の左右にも複数の扉が設置されていた。
「おいおい、分岐はやめてくれ」
奥の扉を除いて、左右の扉は全部で4つ。古き良き時代のゲームをしてきた常世田は、全ての扉を開かずにはいられなかった。
「ぬーん、少しだけ覗いて敵がいたらそっと閉じればいいかな」
とりあえず、1番近くの扉をそーーっと開ける。
すると、そこには宝箱があった。
「ほおお……! 宝箱なんてあんのかよ……!」
常世田は興奮し過ぎない程度に声を押し殺して驚いた。また音が原因でゴブリンが襲ってきても困る。
「ミミック……とかじゃないよね?」
常世田は日本刀の先端で宝箱をツンツンした。宝箱は木製の横50センチ、縦30センチ程度の大きさで、カツンカツンと硬質な音を奏でる。
鍵は付いておらず、蓋を持ち上げれば簡単に開きそうな外観だった。
常世田は意を決して蓋を持ち上げた。いつでも逃げられるように備えていたため、
ガコッ、ギイーーー
なんと、そこには札束が入っていた。
常世田は偽札を疑いながらも枚数を数える。
「――98、99、100。まじか。100万も貰えんの?」
この時の常世田は理解していなかった。これまでに遭遇したゴブリンの戦闘力を。常世田は両手で棍棒の一撃を受け止めていたが、それが常人なら腕は粉々になり、頭まで潰れていたであろうことを。
さらに、ゴブリンの体は本来頑丈で、銃で撃たれてもビクともしない。常世田のベレッタは通常の30倍の威力で、その重さも、反動も常人が扱えるものではなかったのだ。
常世田はその調子で他の扉も開けて行った。結果、廊下沿いの部屋はどれも宝箱部屋で、それらの宝箱には、以下のものが納められていた。
・宝石が散りばめられた首飾り
・得体の知れない緑色の液体が入った小瓶
・金属製の腕輪
「ふむ。換金アイテムかな? 思ったより報酬が美味い可能性」
常世田は小瓶をポケットに仕舞い、首飾りと腕輪は装備した。
「さて、門の主とやらに会いに行くか」
残るは奥の扉だけだ。まだ小部屋が続く可能性もあるが、常世田にはここがボス部屋である予感がひしひしと感じられていた。
なぜならその扉は、他のものと違って幾何学模様や魔法陣のような彫刻が施されており、明らかに普通の部屋に繋がるものとは思えなかったのだ。
常世田は、まずは日本刀で様子を見ることにした。刀を鞘から抜き出し、そーっと扉を開ける。
そこは祭壇のような丸いステージが中央に設けられた特別な部屋だった。
かなり広く、天井も高い。ステージの四隅には白い柱が立っていて、その先端には不思議な力で浮遊するクリスタルが回転している。
すると、各クリスタルが光り、ステージの中央に巨大な影が現れた。
それは体長5メートルは超えている巨体で、腕は6本、それぞれの手に西洋風の剣が握られ、古代ローマ風のトガと呼ばれる服を纏った鬼だった。
肌は赤褐色で、目は緑に光り、額から生える2本の角が鬼であることを物語っている。
それは半透明の影から徐々に実体化すると、首を捻って常世田を睨んだ。
「ファーーー! ゴブリンから一気に難易度上がりすぎだろ!」
常世田は素早く日本刀を煙に戻し、ベレッタを抜いた。できるだけ接近したくない。そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます