第一章 契約者と攻略者、そして自衛隊
第4話 大惨事
「さて、そろそろだな。我はもう行く」
ニコが立ち上がると、タバコに火をつけようとしていた常世田は焦って引き止めた。
「え? 行くってどこへ? てか俺、金持ってないんですけども……」
ニコは今まで見せたこともない、笑顔とも哀愁とも言えない『悟り』の表情で常世田の肩を叩いた。
「すでに予兆は始まっている。よいか? 生きろ。
――ズドオオオオオオオオオン!
喫茶店は、通りを挟んだ向かい側のビルに半分潰された。常世田の目の前には、横倒しになって潰れたビルの窓が轟音と共に
「始まったな。手助けは3回まで。ここで貴重なカードを切るわけにはいかん。とにかく敵を倒せ。門の主を始末しろ。さすれば門は閉じる」
常世田はビルの内部に
そして悟った。
これは『ダンジョン』であると。
ニコの言う『手助け』は、どうしようもなくなった時の救済なのだと。
バトルは始まっている。
「ニコ様、俺、救ってもらった事に感謝してます。この命、あなたの為に使いますよ。へへ、俺にできない事なんて何一つない。ですよね?」
常世田はタバコに火をつけた。昔よくやった咥えタバコで席を立つ。
そして、蘇生時に長くなった髪を後ろで束ねると、煙をヘアゴムに変えて結んだ。
「まだ始まったばかりだ。ここの主は大した事はないだろう。だが油断するな。他の『使徒』が来ないとも限らない。もしそうなったら全力で戦え」
常世田は中学生の時、初めて殴り合いの喧嘩をしたことを思い出していた。彼は決して弱くない。そこに44年という人生経験が伴えば、この喧嘩、勝てる見込みがあると考えていた。
「うし。行ってきます」
「おう」
***
倒壊したビルは、外から見ればボロボロの残骸だったが、ひとたび中に侵入すると、元のオフィスの内部構造と、本来は無かったであろう異質な扉や床が形成された、不気味な空間だった。
ビルは横倒しになっているので、出入り口や廊下も横になっているはずなのだ。
しかし、異質な扉はオフィスの天井や床に設置され、常世田が歩くオフィスの壁も、まるで通路のように床が形成されている。
常世田はベレッタを構えた。最初の扉の先に何かいる。ペタッ、ペタッと足音が聞こえるのだ。
常世田は扉のノブに手をかけると、音を立てないように少しずつ回した。
そして扉を少しだけ開けて中を覗くと、そこにはアニメで見たような『ゴブリン』が裸足でヒタヒタと歩いていた。
彼らに行き先はないらしく、部屋の中央や隅の方を行ったり来たりしている。
数は3体。
不意打ちで1体を確実に仕留める。ヘッドショットなんて慣れた真似はできない。胴体の当てやすい部位に3発は撃ち込みたかった。
ベレッタの装弾数は15発。備えあれば憂いなしと言うが、常世田は予備の弾倉を作ってこなかったことを憂いた。
幸い、ゴブリンが手に持っているのは棍棒だ。刃物ではないので、万が一、格闘戦になっても体格が大きい常世田に分がある。
常世田はタバコを深く吸い込んだ。
覚悟を決める。
彼はスーーーっと音もなく扉を開けると、1番近くにいたゴブリンの胴体に狙いを定めた。
パァン! パァン! パァン!
「ギャーーーーー!」
ゴブリンの腹は狙いやすく、全て命中。初めて撃った拳銃の反動は思っていたよりも小さく、180センチの体格を誇る常世田にはオモチャとさして違いはなかった。
突然の襲撃に驚いた残りの2体は、常世田の存在に気付き、まるで駄々を
常世田に焦りはなかった。
冷静に近い方のゴブリンに狙いを定める。動いているので狙いにくいが、5発撃つことにした。
パァンパァンパァンパァンパァン!
「グキャッ! グボエエッ!」
1発が首に命中し、ゴブリンは紫色の血をボトボトと垂らして膝を付いた。
その様子を見ていた最後の1体の動きが止まる。常世田はそれを見逃さなかった。
すかさずアイアンサイトにゴブリンの頭部を合わせる。動きが止まった今なら狙えると思った。
パァン!
最後のゴブリンは頭部を激しく後方に仰け反らせてバタリと倒れた。
常世田は自分の心拍数が極度の緊張状態であったことに改めて気付いた。バクバクと脈打つ全身の血管に気付き、健康体であることを心から感謝した。
(弾が要る。もっと沢山。この部屋で作っていこう)
そう思った矢先。
バターーーン!
奥の扉からゴブリンが飛び込んできた。
常世田は慌てて残りの弾を撃ち込むが、焦っていた為、全弾外れた。
先頭のゴブリンが飛び掛かってきた時、全部で3体であることがわかった。
「くそったれ!」
常世田は両手を顔の前でクロスして防御体勢を取る。
そこにゴブリンの棍棒が襲いかかった。
ガシィッ!
「ぐっ! いってえ! このクソがああ!」
体格で言えば子どものようなサイズのゴブリンは、常世田に腕を捕まれ、力任せに壁へと吹き飛ばされた。
常世田は形勢を立て直すべく、近くに落ちていたゴブリンの棍棒を拾うと、3体のゴブリンと対峙した。
ゴブリンにも恐怖心があるのだろうか。彼らは動かなかった。
その一瞬の時間が、常世田の脳を活性化させた。
常世田はタバコをスゥーーーッと吸い込むと、吐き出した煙で日本刀を創り出した。
彼は棍棒を手放し、使ったこともない日本刀をスラリと鞘から抜き出す。
「へへ、ぶった斬ってやるよ」
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