中編
夏も秋も冬も、碧は夕馬がいてくれるだけで安心できる日々が続いていた。その成長は目覚ましく、かつて彼女を胡散臭い目で見ていた他の先輩たちも彼女の頑張りを認めざるを得なかった。
そんな碧の心の変化を見届けてきたのが、碧の同期である
やがて時は過ぎ、翌年2月。暖かくなり、春の訪れを感じさせる頃。
碧は夏芽からの誘いで週末、夏芽が1人暮らしをするアパートの一室でお泊り会をすることに。一緒に夕食を食べている最中、夏芽が碧にどうしても尋ねたいことが。
「ねえ碧。碧ってさー、夕馬先輩のこと好きなの?」
碧はびくっとした。彼女にとっては予想だにしない質問だった。これまで無意識に隠し持っていた、夕馬への密かな想いだったのだから。
「そ、そう、なのかな。何だろう、いてくれるだけで安心するというか、その……」
もじもじする碧に対し、夏芽は目を輝かせている。
「最近の碧、何気に楽しそうだもん。特に、夕馬先輩と話してる時とか。まさしく恋してるんだよー。今まで恋に目覚めなかった碧が、ついに……ねぇ」
同期の夏芽にはもうバレバレだ。
「な、夏芽にそこまで言われたら、嘘は言えないな。ふぅー……、本当だよ。いの……夕馬先輩のこと好きなのは。でも勘違いしないで。まだ“love”じゃなくて“like”だから」
「そうなのー?」
「うん。先輩のこと、とても親切で頼りになる先輩で安心できるしー……そのぐらいかなー。家の方向が一緒で、時々一緒に通勤してるんだ。入社したての頃、私を痴漢から助けてくれた。だからか、また痴漢に遭わないようにって先輩が見守ってくれるようになった。そのひと時が何だか、愛おしく――って夏芽、そんな顔しないでよぉ!」
夏芽がニヤニヤして話を聞いている。まるで茶化されているようだ。そのせいで夜はゆっくり寝られなかった碧であった。
その一方で、翌週から夕馬との一緒の通勤がばったりなくなった。絡みも減りつつある。どこか心に穴が開いたような気分の碧だった。
(どうしたんだろう、夕馬先輩――?)
忙しいのだろうと分かってはいるものの、その訳を知らぬまま2月が終わってしまう――
(せ、先輩っ……さ、寂しい……ですよおぉぉ……)
仕事中、数歩前の方にいる彼の背中に届きたくても届かない、碧の心の声。
――そして3月を迎えると、碧にとって辛い現実を知ることになる……。
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