第4話 ベネトナシュ

「だ、大丈夫なのか?」


「大丈夫です。それより、あなたが宝剣アイレスの継承者であるなら、たとえこの身、灰にされようとも守り通します!」


 ファクダは急に敬語になっている。どういうことだ? 宝剣アイレスは確かに剣聖一家に受け継がれる重要アイテムだが、セプテントリオにならそのくらいの代物、いくらでもありそうだ。なぜこれにこだわる?


「ファクダ。もういいよ。私が何とかするから」


 遠くから、凛とした声が聞こえる。次の瞬間には、溶けた岩盤は凍りついていた。


「空へお帰り。【インフィジャール】」


 詠唱と共に閃光が目を刺し、遅れて爆音が轟いた。


「な、なんだこれ……」


 見たこともない規模の爆発だった。蒼鋼木が次々と薙ぎ倒され、爆風が何重にも駆け巡る。ハプルーンの王宮魔術師団全員を駆り出しても、ここまでの爆発は起こせない。空中で炸裂したからいいものの、地上で爆発すれば辺りは更地になっていただろう。


「ベネトナシュ、助かりました」


「なるほど。その子が、宝剣アイレスの継承者なのね」


 ベネトナシュと呼ばれた魔導人形が答える。栗色の瞳に、浅黒い肌。目鼻立ちははっきりとしている。どこにでもいそうだが、不思議と懐かしい顔だった。だが、こんな容姿の少女とは、会ったことがない。


「ヨハンナ様との約束を、果たすときが来たようね」


「ベネトナシュ。でも記憶のことは……」


「分かってる。然るべきときまで、秘匿するわ」


 ファクダとベネトナシュはなにやら意味深な会話をしている。いったい何のことだ?


「助かった。恩に着る。命の恩人を危険に晒すわけにはいかない。不老不死の秘法はなかったと、国王陛下には報告するよ」


 王命には反するが、その方が剣聖として正しい在り方であるだろう。


「そんなことはどうでもいいの。ハプルーン王国に、ヨハンナ様の故郷に、危機が迫っている!」


 ベネトナシュは、鬼気迫る口調で伝えてきた。魔導人形なので、無表情だが。


「危機とは何だ?」


「帝国が攻めてくる」


「帝国?」


 なんだそれ? どこの帝国だ? ハプルーン王国の周りには自治都市連合が点在しているだけだ。帝国と呼べるほど巨大な国はない。

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