第2話 魔導人形ファクダ

「あんたが【驕慢のピラウティア】か?」


 息を切らしながら俺はそう問う。この魔導人形、相当な完成度だ。どんなに打ち込んでも傷一つつかない。関節や目を狙っているが、全く刃が通らない。噂に聞く、魔法素材学の粋を詰め込んだ人形に違いない。


「人はみなそう呼ぶ。お前も好きにそう呼べばいい。ただ、侮蔑の言葉であることを忘れるな」


「すまないな。じゃあなんと呼べばいい?」


「ファクダ。ヨハンナ様からはそう呼ばれていた」


 ここでもヨハンナの名前が出てくるか。どうやら伝説は本当らしい。


 魔導王ヨハンナは、自分の技術の粋を集めて四体の魔導人形を作り、北の未踏領域を守らせていると。


 未踏領域【セプテントリオ】には、不老不死の秘術が隠されていると専らの噂だ。俺が国王様に魔導人形討伐を依頼されたのも、それを持ち帰るためだ。


 どこまで本当か分からないがな。


「ヨハンナ様の秘法を守るのが我らの役目。貴様のような不逞の輩においそれと渡してよい代物ではない」


「その秘法とやらは、不老不死の薬のことか?」


「これだから凡俗は」


 ファクダは無表情のまま嘲った。


「ヨハンナ様の秘法はその程度のものではない。もっと壮大な目的を達するためのものだ。おおかた、国王にでも捧げるつもりだろうが、小国の主一人を生き永らえさせるためにあるようなものではない。身の程を弁えろと伝えろ」


「あいにく、そこまでの発言権はないのでね」


 俺は無駄な会話を続けながらも、思考を巡らせる。


 ここに建物はない。だが、向こうに見える森に入ってしまえば、足場ができる。

【屋踏舞】ができる。この奥義に賭けるしかない。


 俺はファクダの横を走り抜け、森へと突っ込む。


「逃げ込む先を間違えたな。そこでは一日と生き延びれんぞ」


 そんな警告など、関係ない。森に隠れようというわけではない。ただ木を、足場にするだけだ。


「秘奥義……」


 これは本来、建物を利用して高く駆け上がり、そして屋根の庇を蹴って急降下し繰り出す技。躱せた者も、受け切れたものもいない。


「【屋踏舞】」


 木の幹を踏んで駆け上がり、頂上の枝を蹴って急降下する。この斬撃なら、ファクダとて無傷では済まないはず。


「お前は本当に愚かだな」


 ファクダはそうとだけ言い放った。


 おかしい。空中で静止している?

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