錆びた宝剣が繋ぐ!魔導人形との絆

川崎俊介

第1話 謎の宝剣

 蒼鋼木を割って作った薪に黒魔竜の肝油を注いで着火し、翠神石を研いで作った金型をその火で融かしながら鍛造を開始する。


 それこそが、剣聖に代々受け継がれる宝剣アイレスの製造方法の序盤だ。


 目下の問題は二点。


 経年劣化が激しく、研磨し直さねばならない点。


 蒼鋼木も黒魔竜の肝油も翠神石も、そんな材料は未だかつて存在した痕跡がない点。


 だった。


「剣聖になれたはいいものの……この宝剣、どうしたもんかなぁ」


 ハプルーン王国十三代目剣聖を襲名した俺、エラルド・ステファノプロスは、思わずぼやいた。ハプルーン王国が先進魔導国家として名を馳せたのも今は昔。


 今では宝剣の研磨方法すら分からない。


 そんな国でも出世はしたい。俺こそが、もはや廃れつつある剣聖一家の威信を取り戻したい。そういうわけで、王室の敵を討伐する任務に名乗りを上げた。国王陛下に認められれば、間違いなく富と名誉が手に入るからだ。


「ヨハンナ様がいればな……」


 かつての王国最盛期に現れ、一代にしてこの国の魔法技術を進歩させた天才、ヨハンナ・アイレスフォード。禁書の無害化、宝剣アイレスを含む数々の魔剣の鍛造、膨大な食料の湧き出る島の創出、王国兵の自動化など、偉業は枚挙に暇がない。それが10年前の話だ。


 だがあるとき、王国を出奔してから戻らず、消息不明となった。彼女は弟子を取らず、仲間を持たず、部下も護衛もつけなかった。そのためヨハンナの技術はそのままロストテクノロジーとなり、王国は衰退の一途をたどった。


 ヨハンナを英雄視する者もいれば、国を捨てた裏切り者と呼ぶ人もいる。どちらにせよ、絶大な影響力を持つお方なのだ。


「この剣を甦らせるくらい、簡単にやってのけるんだろうなぁ」


 とはいえ、スペアの剣はいくらでもある。王室の敵―セプテントリオの魔導人形―を討伐するのに、宝剣アイレスでなくてはならないということはない。そこは技術でカバーするし、俺の愛剣レディレイだって、相当な切れ味を誇る。


 さっさとこの任務をクリアして、褒賞で成り上がってやる。


 と思っていた。


「愚か。本当に愚か。そんな鈍らでどうして私が斬れると思ったのか、理解に苦しむ」


 北の未踏領域、【セプテントリオ】。俺は、その門番たる魔導人形を打ち破ることすら叶わなかった。

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