30.最愛

「ねぇ、鶴~!」

「なぁに、千恵ちゃん」

「チューして」

「えっ!?」

「だから、チューしてって言ってるのっ!」

「で、でも、わたしたち大人と子供だし……!」

「そんなの関係ないっ!」

「ええっ!?」

「いいじゃん。ねぇ、しよっ?」

「で、でも! でもでもっ!」

「お願いだから、焦らさないで……。それとも、鶴はあたしとするのイヤ……?」

「そ、そんなことないけどっ……!」

「良かった! じゃあ、いいでしょ……? あたしと、しよっ……?」

「う、うんっ! わたしなんかで良ければっ!」

「ありがとう」

「うん!」

「じゃあ、目を瞑って……」


 ――唐突。

 本当に唐突だが。


 そこでわたしは夢から目覚めるのであった。


「くそー、せっかく良い夢を見てたのになぁ!」


 わたしは上体を起こすと、大きく『チェッ!』と舌打ちをする。

 しかし、ふと横を見ると、そこには、天使の寝顔の千恵ちゃんがいた。


(……そうだ。わたしは千恵ちゃんと一緒に昼寝をしたんだった)


「ムニャムニャ」


 わたしは千恵ちゃんを起こさないようにその寝顔をじっくりと眺める。


(……可愛いな)


 千恵ちゃんはスヤスヤと完全に寝入っている。


(無防備だなぁ……)


 最初に言っておくが、変な意味で言ったわけではない。

 ただ何となく、わたしのことをどう思っているのかなって思っただけだ。


「鶴~! 団子虫は食べ物じゃないから食べちゃ駄目だからね~! ムニャムニャ……」


 どんな夢を見ているのやら。

 わたしは『ふふっ』と微笑を浮かべる。


「……大好きだよ、千恵ちゃん」

「鶴~! わたしも大好き~!」

「えっ!?」


 千恵ちゃんは相変わらずぐっすりと寝ていた。


「寝言、か……」


(……そうだよね)


 いつか。

 そう、いつか。


 わたしは、千恵ちゃんにとっての〝最愛〟になりたい。


(――その為には)


「いったいどうすればいいんだろう……」


 わたしは千恵ちゃんの寝顔に視線を戻すと、少し先の未来に想いを馳せるのであった。

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