29.わたしたちの戦いはこれからだ

 わたしがノートパソコンに向かって、小説を書いていると、千恵ちゃんが何か言いたそうに、わたしの肩を叩いてきた。


「どうしたの?」

「あのね、スマホで小説を書いたの……」

「え!?」

「だから……、鶴に読んで欲しいなって……!」


 千恵ちゃんはモジモジとしながら、わたしに恐る恐るスマートフォンを手渡してきた。


「拝読させていただきます」

「……はい」


 一言で言って、千恵ちゃんの小説はダークファンタジーだった。

 タイトル名は『灰燼に帰す』。

 読むのにそれほど時間の掛からない短編小説だ。


 登場人物は主人公となる少女がひとりだけ。

 その主人公の少女が不老不死のため、世界から虐げられ、そして、終始怨嗟の声を吐き続ける――それが『灰燼に帰す』という物語の大まかなあらすじだ。


 最後はあっと驚く展開もあり、わたしは夢中になって小説を読み終えた。


 小説を読み終えたわたしは、思わず息を呑んでしまう。

 普段の千恵ちゃんを知っているわたしからすると、とても千恵ちゃんが書いたとは思えない小説だった。


 しかし、わたしは千恵ちゃんが書いた小説を面白いと思った。

 わたしはそれを千恵ちゃんに伝える。

 千恵ちゃんは泣きそうなほど喜んでくれて、わたしは思わず面を食らってしまった。


「ちょっ、ちょっと! わたし、そんなに大したこと言えてないよ!?」

「そんなことない! あたし、鶴の小説が本当に大好きだから、その憧れの〝鶴先生〟に褒めて貰えて、凄く嬉しい……!」

「や、やめてよ! わたしなんか……!」

「鶴はそう思ってるかもしれない。でも、あたしにとっては、鶴は憧れの〝先生〟なのっ!」


 嬉しい。本当に嬉しい。

 わたしみたいなド底辺WEB作家のことをそんなにまで思ってくれるのは千恵ちゃんだけだ。


「……どうして、鶴が泣くのよ」

「だって、わたし自分の作品に本当に自信がないから……」

「じゃあ、これからは持とう! あたしももっと鶴のこと応援するからっ!」

「ありがとう……!」


 わたしは千恵ちゃんに手を差し出す。


「なに?」

「わたしたちはこれから〝ライバル〟ってことでよろしく」


 泣きながら、ニカッと、千恵ちゃんに笑い掛ける。

 驚いた様子の千恵ちゃんだったが、差し出したわたしの手をしっかりと握り返してくれた。


「よろしくね、鶴っ!」


 わたしたちの戦いはこれからだ!

 尚、わたしたちの日常は終わることなくまだまだ続く――。

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