28.野球拳

「――ねぇねぇ!」


 千恵ちゃんがわたしの肩を掴んで、ガクガクと揺らしてくる。


「ど、どうしたの? 今日はなんか妙にテンションが高いね」

「えへへ! 今、WEB小説で面白いことを知ったんだけどさ」

「う、うん」

「〝野球拳〟しない?」


 一瞬、何を言っているのか理解が出来なかった。

 『野球拳』ってあれだよな。

 ふたりで相対して、歌をうたいながら、じゃんけんをして、負けた方が着ている服を一枚ずつ脱いで行くってやつ。

 馬鹿馬鹿しい。

 非常に馬鹿馬鹿しいが、千恵ちゃんの裸を見れるチャンスかもしれない。

 わたしは『やる!』と言い掛けて、慌てて口を噤む。

 千恵ちゃんの裸は見れるかもしれない。

 でも、逆にわたしの裸も見られるかもしれない。

 それを考えたら、この遊びは――わたし的に却下だった。


「やだ」

「あたしの裸が見れるかもしれないのに?」

「それよりもわたしは、自分の裸を見られるかもしれないことが絶対にやだ」

「……鶴の体型ってメリハリないもんね」


 それを言われて悲しくなったが、本当のことだから黙っている。


「千恵ちゃんはいいよ……。小学生にして、そんなイケイケボディでさ……。わたしなんて生まれてこの方……、うぅ……!」

「分かった! 分かったからっ! ほら、泣かない泣かないっ!」


 わたしが本気でぐずついていると、千恵ちゃんが優しく頭を撫でてくれた。


「もう今日はさ、寝ちゃおう。添い寝してよ、鶴」


 ――時刻は夕方。

 まだ寝る時間ではない。

 しかし、わたしは昼寝したい気持ちに駆られる。


「……野球拳の話が出るほど暇なんだし、こんな時間に寝てもまぁ仕方ないよね」


 わたしがそう言うと、千恵ちゃんが大きく首を縦に振った。

 『寝よ寝よ』と千恵ちゃんがわたしの腕にしがみついてくる。

 わたしたちは座布団を枕代わりにすると、スヤスヤと眠りの世界に落ちて行くのであった。


「「――おやすみ、世界」」


 尚、わたしたちは二時間後に目覚めたのだが、その時の目覚ましは千恵ちゃんのオナラの音であった。

 正直に言って、千恵ちゃんのイメージが少しダウンしたが、生理現象は仕方ないよねと言って、その場でわたしもオナラをしておいた。

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