27.嫉妬

「ふんふんふーん♪」


 一言で言ってご機嫌。

 千恵ちゃんは鼻歌交じりで、うつ伏せになりながら、スマートフォンを弄っている。


「どうしたの?  何か良いことでもあった?」


 気になって尋ねると、千恵ちゃんはニッコリと微笑みながら、『来たの!!』と言った。

 わたしは『何が?』と、さらに尋ねる。


「ずっと更新が止まってた、お気に入りのWEB小説が今日更新されたんだ!」

「なるほど。それでそんなにご機嫌なのね」

「わたしが初めて読んだWEB小説がその小説なんだ。とにかくもう物語が本当に良くてさ、初めて読んだ時はページをスクロールする手が止まらなかったよ」

「……うんうん! いいねそういうの!」


 なーんかモヤモヤする。


 ――あれ?

 口で言ってることと、心で思ってることが違くなってるな。

 もしかして、わたし、その小説を書いた人に嫉妬してる――?


「鶴も見てみる?」

「え」

「反応悪いじゃん。どうかした?」

「い、いや、何でもないよ」


 まさか〝千恵ちゃんはわたしだけのものだ〟とは言えない。

 いい歳をした大人なのに、わたしは千恵ちゃんを独占したいと思っている。

 今の今まで気付かないフリをしていたが、どうやらもう駄目らしい。

 わたしは自分の素直な気持ちに気付いてしまった。


(……千恵ちゃんはわたしの小説だけを読んでいればいいんだ)


「あのね」


 千恵ちゃんが何か言いたそうにわたしを見つめてくる。


「――あたしもさ、いつか小説を書きたいと思っているんだ」

「そうなの?」

「うん」


 千恵ちゃんは恥ずかしそうに首を縦に振る。


「先行って小説を書いたら、一番に見てくれる……?」


 上目遣いでモジモジと懇願してくる千恵ちゃんに、わたしはグーサインを送る。


「わたしで良ければ!」


 すると、千恵ちゃんは嬉しそうにこう言った。


「――ありがとう! 〝鶴〟先生!」


 まんざらでもない。

 鶴先生と言われ、わたしは満面の笑みをたたえるのであった。

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