26.初恋

 何となくやる気が出ない。

 しかし、書かずにはいられない。

 自分でもよく分からない謎のテンションで、だらだら小説を書いていると、千恵ちゃんが指で頬をつついてきた。


「ねぇ、鶴の初恋っていつ?」

「えっと、初恋とはまたちょっと違うのだけど、初めて女の子を意識したのは、中学生の頃かな」


 ピクリ。

 千恵ちゃんの眉が大きく動いた。


「あの頃は若かったよ。わたしもまだ一三歳でさー」


 わたしが笑いながら、しみじみ話していると、千恵ちゃんは素っ気ない態度で『ふーん』と言った。

 そのあと、風船のように頬を膨らますと、勢いよくそっぽを向き、わたしの話は聞こえないと言った素振りを見せる。

 わたしはあからさまなその態度にぷっと吹き出してしまう。


「……自分から聞いておいて、なんか機嫌悪くない?」

「だって、鶴はあたし以外の女の子には、興味ないと思っていたから……」

「む、昔の話だからね。それに、その時の女の子もただ可愛いなーって思ったくらいだよ」


 どこか気まずい思いをしながら、わたしは視線を部屋の隅に向ける。


「ところで、そういう千恵ちゃんの初恋は?」

「えっ!? そ、それは……」


 千恵ちゃんは顔を真っ赤にしながら、下を向いて黙ってしまった。


「なに?」

「秘密!」

「なによそれ」

「うるさいバカっ! 自分の胸に聞いてっ!」


 今日もわたしたちの日常はバカバカしい。

 わたしは千恵ちゃんの手を取ると、自分の頬にそっと優しく当てながら、くすくすと上機嫌に微笑むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る