24.手と手

 わたしの小説は千恵ちゃん以外にはほとんど読んで貰えない。

 多分、わたしの小説は面白くないんだろう。

 千恵ちゃんが読んでくれてるのはたまたま奇跡みたいな確率で好みが当てはまっただけなんだと思う。


 小説を書くのは楽しい。

 正直に言って死ぬまでずっと書いていたい。

 小説を書くことはわたしにとってストレス発散なんだ。

 しかし、あまりに読んで貰えないという事実は、わたしの大きなコンプレックスとなっていた。


 わたしは自分の小説にまったくと言って自信がない。

 千恵ちゃんはいつも面白いと言ってくれるが、実は密かにお世辞なんじゃないかと思う時もある。

 本当はそんなことない。

 わたしが思っているそれはただの被害妄想だ。

 分かっている。

 分かってはいるけど、身内以外にはほとんど読んで貰えないんだ。

 そう思ってしまうのも仕方ないだろう。


 千恵ちゃんが今日もわたしの小説をねだってくる。

 ――もう、このまま。

 千恵ちゃんの為だけに小説を書くのもそれはそれでアリかもな。


「まぁた、難しい顔してる」

「……えへへ、ごめん」

「あたし、鶴の小説本当に大好きだよ。だから――」


 〝もっと自信を持ちなよ〟


 わたしの横でしながら原稿を待っている千恵ちゃんに、泣いているような声で小さくありがとうと言う。

「……どういたしまして」

 千恵ちゃんは顔をほころばせながら、『さあ、もういいでしょ! 早く書いて!』と言った。

 しばらくして、わたしは、出来上がった原稿を千恵ちゃんに差し出す。

 待ってましたと言わんばかりに、出来立てほやほやの原稿を受け取った千恵ちゃんは、大はしゃぎで大きく相好そうごうを崩した。


「今回はどんな話にしたの?」


 わたしはとにかく読んでみてと言う。

 千恵ちゃんは目を輝かせながら、読み始めるとすぐに『面白いね、これ!!』と言ってくれた。


「……もっと読まれるようになるといいね」


 わたしの手に千恵ちゃんの手が重ねられる。

 じんわりとしたその手の温もりは、わたしの心を優しく温めてくれた。

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