第16話 賊の正体と、落とし前

 オーサンとローストを襲った賊の正体は。

 結論から言えば――〝全滅した集落の生き残り〟だった。この終わった世界で、少し前までは、集団の中に身を寄せ合っていたのだという。


 それでも実り無き荒れ地では、していくことも出来ず、小さなコミュニティは崩壊してしまい……生き残ったのは、この三人家族のみ。


 しかも三人目の手練れは〝母〟だったというのだから、そこもまた驚きだが――今や敵意はなく、むしろ賊として襲撃したことの罪悪感がまさるようで、何度もオーサンに頭を下げていた。


「ごめんなさい、本当にごめんなさい……あなた方を襲って、それなのに、こんなご厚情こうじょうを……なんて、なんてお詫びすればいいのか……」


「オウ。二度と賊なんてんじゃねぇぞ。次はマジで容赦しねぇからな。んじゃ、さっき言った通り、俺らの用事が終わるまで、元の集落で待機してな」


「は、はい! ごめんなさい、本当にごめんなさい……また後ほど、よろしくお願いします……」


 バイクで襲い掛かってきた時の荒々しさはどこへやら、クセのように謝罪を口にしつつ、何度も頭を下げて離れていく女性。疲れた表情で目尻に小さな皺はあるが、垂れ目気味で、本質的には柔和な性質という印象だ。


 とはいえローストに対しては、反撃のされ方が超常的すぎたこともあってか、畏怖と恐れが心魂に根付いているようで、終始怯えてはいたが。


 彼女の戻る先には、なかなか傷だらけの二人の男性もおり、彼らもオーサンとローストに向けて何度も頭を下げている。

 ちなみに最初に転がされたのが〝息子〟で、サボテンに突っ込んだのが〝夫〟らしい。怪我はしているが、命に別条はなさそうで何より。サボテンのトゲ、まだ刺さっているが。


 家族の下へ戻った女性は、自身の所持品であるバックパックを胸に抱いており――その中には、オーサンが分けてやった非常食など必要物資が入れられている。


 そのこともあり、三人家族は去り際まで、オーサンに頭を続けていた。

 が、オーサンは珍しく厳しい表情を崩さず、〝賊なんて二度とやるんじゃねぇぞ〟と念押しするような鋭い視線で見送る。


 そうして、三人が故障したバイクを手押しで、ノロノロと去ったのを見届けて――オーサンはようやく表情を崩し、ローストに語り掛けた。


「集落が崩壊して、食いモンにも困って、他の集落へのもねぇ。アイツらにとっちゃ、賊になるのは苦渋の判断だった……が、だからって〝仕方ない〟なんてこたァねぇ。襲われる側にとっちゃ、たまったモンじゃねぇしな。……まあそれでもだ、こんな人不足の世界だしなァ。あ~、でもやっぱ、甘いって思うかい?」


「? ……ンン……」


「分かんねえか、ガハハ」


 言葉を反復せず、こてん、と首を傾げるローストの仕草は、〝よく分からない〟時――無表情な少女の、ささやかな感情表現にも慣れてきたオーサンが、お喋りを続ける。


「でもまあ、ちょっと食いモン分けてやった程度じゃ、放置すりゃ同じコト繰り返すかもしんねぇだろ。俺らの用事が終わったら、帰りがけにアイツらも拾ってって、アラニの集落に紹介するつもりだよ。なぁに、油断させて襲うつもりだったらどうすんだ、なんて心配すんな。アラニの姐さんはそこんトコ俺なんかより上手くやるし、アラニ本人の腕っぷしもハンパないんだぜ?」


「ン。アラニ、ハンパない」


「おっ、分かるかい、ガハハ。おっと、賊への落とし前の話だけどよ、誰に対しても今回みたいにしてるワケじゃねぇぜ? まあこんな無法の世界じゃ、ホントにどうしようもねぇ悪人だっているからなァ……容赦しねぇコトもあるさ。ガッハッハ」


「ン。容赦しねぇ」


 なかなかハードなことを、軽快に笑い飛ばすオーサンに、分かっているのかいないのかローストも反復する。


 さて、とにもかくにも、こうして本当の意味で脅威が過ぎ――瞬間、くう、とローストのお腹がなって。


「おっ? なんだ、お腹がカワイくなっちまって、珍しいなロースト。今日は色々あったし、疲れて腹減ったかい?」


「ン。はらへった」


「そうかいそうかい、ガハハ! なぁに、イイってコトよ、腹が減るのは逆に健康な証拠、何よりよ――って、オオットォ!」


 言いながらオーサンも、グゴゴゴゴ、と腹を鳴らす。少女との差、そこにツッコむ者もいない中、オーサンが頭を掻きつつ豪快に笑った。


「ガハハ、俺も腹減っちまったし、今日はこの辺で休むか! なァに、海までもう少しだ、今晩は遠慮ナシに食って、明日に備えてしっかり休むとしようぜ!」


「ン。休む」


「オウヨ! そんじゃ、準備するぜ~!」


 言いつつ、オーサンがローストをシートに乗せ、バイクを手押しして移動するのだった。

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