第9話 この荒廃した大地で、ステップを。

 はなはだしく警戒を強める集落のリーダー・アラニに、オーサンが必死の説得をこころみ、ようやく納得してくれたのか最初の調子に戻る。


「どっかの文明の跡地、研究施設みたいな所で拾った女の子、か……ハハッ、なるほど、そうだったんだね。なぁに心配しないでよオーサン、半分は冗談だったしサ!」


「全部が冗談であって欲しかったなァ~」


「アンタの言うことも、あの子を変な目で見てないってのも、半分は信じるサ!」


「まだ半分は疑われてンだなァ~……」


 軽くしょんぼりするオーサンだが、「アハハ」と軽く流した(撤回はしない)アラニが、ローストの足元を確認して少しばかり憮然ぶぜんとした声を漏らす。


「むっ。……はあ、ていうか、荒野の砂漠を旅してて……こんなペラッペラのスリッパで歩き回らせるなんて、どうかしてんじゃないのかい!? 女の子に対してデリカシーが無いなんてレベルじゃないよ、常識がナイね、常識が!」


「え……あ、ああっ! そういや、失念してたなァ……いやローストも平気な顔してて、熱いとも言わねぇモンだから、ついつい……」


「ついつい、じゃないよ、アンタはホンット、そういうとこうといんだからサ……ほらお嬢ちゃん、大丈夫? ずっとバイクに乗りっぱなしってわけじゃないんだろ、熱い砂の上じゃ火傷してるかも……ってアラ? なんか足の裏、っていうかスリッパすら、全然汚れてないねェ。まるで浮いてきたみたいだよ、アハハ」


「ン。浮いてきた」


「あ~、ローストは不思議なトコあっから、そういうコトもあるかもな~」


「アハハ、二人して冗談言ってんじゃないよ。ん~……そうサね、オーサンには前から世話になってるし……よし、コイツはお嬢ちゃんにサービスだ!」


 言うが早いかアラニが持ち出してきたのは、色合いは白一色の、歩きやすそうな厚めで低いヒールのパンプス。シンプルながら、中央に飾られた小さな水色リボンが可愛らしい、荒廃した世界では珍しい一品だ。


「ホントは自分用に作ってたんだけど、どうもサイズが小さすぎたみたいでねぇ……でもお嬢ちゃんの足ならピッタリだね。なに、遠慮するこたないサ!」


「こんなカワイイ感じのをねえさんが履くつもりだったのかい? ガハハ!」


「アハハッ、ぶっ殺すよ?」


「ゴメンて!」


 割と冗談抜きなアラニの威圧に、謝るしかないオーサン。


 さて、それはそれとして、白のパンプスを履かせてもらったローストは――スッ、と音もなくバイクから地へ降り立ち、足元を踏みしめるようにして確認し。


「? ……ン。………♪ ♪♪」


 無表情は相変わらずだが、慣らすように何度もステップを踏む姿は、まるで軽やかに舞っているようで――その様子に、アラニとオーサンは和みつつ頷いた。


「アハハッ、どうやら気に入ってくれたみたいサね。ホント、こんな世界じゃ珍しいカンジのキレーな子だけど……子供は子供なんだねェ」


「おお……まだ出会ってから、二、三日くらいしか経ってねぇし、今だって無表情だけど……あんなに楽しそうなのは、初めてかもな。へへっ、なかなかどうして――」


「アンタ、ホントにあの子に変なキモチ持ってないの?」


「まだ疑ってらっしゃるカンジッスか?」


 詰めてくるアラニに、恐々とするオーサン――とその時、ステップを踏み続けていたローストが。


「……あ、あの、おねえちゃん……」


「? ……ン……」


 思いがけず声をかけられ、スタッ、と足を揃えて動きを止めた。

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