第7話 人の寄り合う集落へ

 中天に陽が昇り、いかめしいばかりの熱気が焼きつく荒野を、バイクで駆け抜ける。


 操縦するは浅黒い肌の精悍な男、後ろに乗るは小柄な純白の少女――


 相当の距離を走破した二人が、砂塵に浮かぶ影を前方にとらえると、オーサンが叫んだ。


「オッ、見ろよロースト、アレが集落だ! あそこなら信用できるヤツが仕切ってるし、物々交換と色々準備でもしていこうぜ、ガハハ」


「ン。いろいろ準備」


「オウ! 何せ海まで行くってんなら、しっかり準備しなきゃだからなぁ。かも分かったモンじゃねぇし、気をつけねぇとな……」


「ン………海、行く」


「わかってるって! ……っと、そろそろ着くぜ」


 言いながらスピードをゆるめたオーサンが、しばらく慣性のままゆっくりと進み、やがて完全にエンジンを切ると。

 ローストは乗せたままバイクを手で押して歩き、そこへ――集落へと近づいていく。


 点在する大小の岩々、その狭間を埋めるように作られた、見るからに粗末なバリケード。穴だらけでほとんどハリボテのような金網に、一応としか思えないような木の柵まで見える。


 けれど、この終わった世界においては、そこは確かに集落――これまた一応と思しき入り口に、見張りとおぼしき痩せこけた男が立っており。


「……っひ!? だ、誰だ!? ……って、あ、ああっ!」


「―――オーウ、久しぶりだなァ! まだ生きてたみてぇで何よりだぜ、ガッハッハ」


「お……オーサンさん、オーサンさんじゃねぇか! アンタこそこんな世界で旅なんてしてて、よく無事で……こ、今回もなんか、収穫が……?」


「オオヨ! つか上々よ、上々! リーダーさんに直接持っていって、挨拶してぇから、通してくれっか?」


「も、もちろんだオーサンさん、助かるよ! 今、開けっから……よ、っと、っと……!」


 ほぼ立てかけるように設置していた金網フェンスを、手動でガシャガシャと引っ張り、道を開ける。


「ありがとよ!」と礼を口にしつつオーサンが通ると、見張りが軽く手を上げて応え――直後、バイクに乗ったままの、純白の少女と目が合い。


「―――へ? ……お、女の、子?」


「? ン……ありがとよ」


「あ、え、い? ……えっ?」


 完全な無表情で、オーサンを真似て軽く手を上げる少女に、見張りは完全に面食らう。


 彼の知る限りでは、オーサンが初めて連れてきた、人間――だが、この終わった世界において、あまりにも場違い。


 小柄で、華奢で、透き通るほど儚くて――まるっきり、純白で。

 バイクで駆けてきたとは思えないほどに、衣服に砂粒一つ、付いていないなんて。


 オーサンとのコンビも考えにくいほどアンバランスな、その純白の少女に、見張りは目をこすりながら呟いた。


「……幽霊ゴーストでも見ちまった、かな……は、ははは……」


 そう呟かずにはいられないほど、ローストの存在は、異質に見えるのだ――(オーサン以外には、だが)



 ◆     ◆     ◆



 そう広くはない集落を、ローストを乗せたままのバイクを手で押して進む。


 純白の少女の無表情は相変わらずだが、興味はあるのか、きょろきょろと集落の様子を眺めていた。


 とはいえ、明るい光景とは言いがたい――道行く人は誰もが表情は暗く沈み、道の端々に座り込んでいたり、不安を埋めようとするように寄り合っていたり。


 住居の代わりもテントなら上等、ほとんどは枯れ木で粗雑に組み上げた吹きさらし、悪ければ何かを敷いて寝そべっているだけという者も。


 逞しい腕でバイクを押したまま、おしゃべり好きなオーサンは軽く説明する。


「……ああいうテントとかも、俺みたいな旅人がどっかの文明の跡地で拾ってきて交換したり、獲物の皮なんかで作ったりするんだけど……まあこんな世界じゃどうしたって、物資不足ってヤツだよな。新しいモノを作り出そうにも、人も少なけりゃ素材もねぇ。なかなか大変だぜ」


「ン……大変」


「オウ……でもな! それでもよ、例えばこの集落にゃ、結構な数の貯水タンクがあるだろ? ツギハギだらけで、ってカンジで、形を整えたモンだけどよ……雨が降った時なんかに出来るだけ、水を逃がさず貯められるように、ってな。それを濾過ろかしてどうにか飲めるようにしたり、他にも生活に色々と使ったり。終わった世界だっつっても、でも、やりくりしようとしてンだ……ニンゲンってな、強いモンだろ?」


「ン。強い」


「だろォ? ガッハッハ!」


 ローストの同意に、得意げに大笑いしたオーサンが、続けて言うのは。


「ま、この集落は、特別かもしんねぇけどな。これでも他より活気あるほうだし、人が集まってくんのも、やっぱがイイから――」


 と、オーサンが言い切る前に。


「―――オーサン!」


 噂をすれば影、とばかりに、ここでは珍しい威勢の良い声が割り込んだ。

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