第2話 研究施設と謎の少女

 結論から言えば、今回の収穫は、上々。バイクの燃料も予備タンク一杯に入れられるほどで、非常食の缶詰も少しばかり手に入れられた。


 上機嫌に鼻歌を漏らすオーサンが、そろそろ引き上げるか、ときびすを返そうとする。


「フン、フン、フ~ン♪ こんだけありゃ、暫くは困んねぇな。どっかの集落で、物々交換もアリか。潰れてなきゃイイんだけどな、ガハハ―――お、っと?」


 が、その途上――まだ調べていなかった部屋から、微かな異音がするのに気づく。


 ふむ、と無精ひげの生えた顎先に手を当て、考えるオーサン。既に収穫も上々なら、これ以上は過剰かもしれない。よく分からない研究施設で、爆発でもしたら大損だ。もはや無法の世界で、賊でも潜んでいたら面倒である。


 けれどオーサンは、なぜか――何かが、そう、何かが気になって。

 その部屋へ、近づいた。機械的な硬質の扉の前に立つ、と。


 瞬間、シュンッ、と扉が左右に開き、オーサンは驚かされる。


「うおっ!? 何だ、電気が通ってんのか、ここ……本当に珍しいな。もう技術者なんていなくなって、何十年と経ってんだろうに……って、この部屋……?」


〝なんだ?〟とオーサンが見回す。これまで訪れたことのある文明の跡地、病院など医療施設に似ている気はする、が、いまいち当てはまらない。


 見たこともない機械、手術台のようなものに、何のために使うかも分からないようなマシンアーム。錆びていないスチールだし、持って行く価値もありそうだ、が。


 そんなもの達より、圧倒的な存在感を誇る、部屋の奥まった位置に存在するモノ。


 巨大な、カプセル―――そして、その中に、入っているのは―――



「―――女の、子? なんだ、コリャ……こんな機械、初めて見るぞ……まさか、この子、生きてんのか? ……まさか、な……」



 生まれたままの姿で横たわるのは、およそ十代半ばほどだろうか。もしかすると、もっと若いかもしれない……が、息の一つもしているようには見えなかった。


 透明なガラスのような隔たりは、見た目の印象以上に分厚く固い。爆薬でも使わなければ開きそうにないが、開く理由がある訳でもなし。


 ふと、カプセルに繋がる良く分からない機械の上に、カルテらしき書類をオーサンが見つけた。興味本位に掴んだ書類に、目を通しているが。


「ん、んん……? ところどころボロっちくて、良く分かんねぇな……〝Typeタイプ〟……ろ、ロ、Lo……ああダメだ、そもそも文字ジッと見てると頭が痛くなんだよ俺、あ~っ」


 ポイッ、と機械の上にカルテを放り投げ――ガチッ、とぶつかった、その時。


〝ビーッビーッビーッ〟と警報音が鳴り響き、オーサンは慌てふためく。


「うおっ!? な、なんだ急に、何が起こった!? ま、まさか機械、壊しちまったか!? いや俺、何もしてないと思うんだけどな!?」


 誰にともなく言い訳しつつ、室内で右往左往している、と。


〝プシューッ〟と空気を吐き出したのは――少女の横たわっていた、カプセルで。


「……………へ?」



 カプセルが、ゆっくりと――その透明な蓋を、開いた。


「……オイオイ、まさか……いや、まさか、そんな……なぁ?」


 ありえないだろう、と、また誰にともなく、あるいは自分に言い聞かせるように、オーサンが呟くと。


 そのが、起こった。


 カプセルの中で、生きているかどうかも、分からなかったような―――



『……………………』



 少女が、ゆっくりと―――その身を、起こしたのだった―――

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