ロスト・ワールド ~その少女は海を目指した~

初美陽一

第1話 陽気なオッサンとバイク


 かつて栄華を極めた文明は、どうにも崩壊してしまったそうで。


 何でも〝神〟になろうと異常な研究を繰り返していた人間達が、しまったらしい。何もない空間から炎を出すだの、風を巻き起こすだの、いわゆる〝魔法〟のような力を実現しようとしたのだ、とか。


 結果は大失敗、おかげさまで世界は終わり、大地は荒れ果て文明は崩壊、数えるも億劫おっくうになるほどの犠牲者を出し、かろうじて残った人間は緩やかな終焉を待つばかり。


 世界が終わってからそれなりの時が経ち、見渡す限り砂漠も同然の、そんなみのり無き荒野を―――



「フン、フン、フ~ン♪ 明日は何が食えっかな~、っとくらぁ♪」



 三十歳前後ほどだろうか、一人の精悍な男性が、バイクを駆って進んでいた――


 名は、〝オーサン・オルグレン〟。

 この終わった世界に似つかわしくないほど、陽気な鼻歌まじりに、颯爽さっそうと。


 彼……オーサンは、文明の跡地から物資を補給しつつ、旅を続けていた。

 特に目的など、あるわけでもなく。


〝自分がそうしたいから、そうするだけ〟

〝旅がしたい、それだけ〟


 文明も何もなくなった今、〝これはこれで自由だな〟と前向きになれるのは、この荒廃した世界ではなかなかに珍しい。


 さて、そんな彼が、視界に捉えたのは。


「おっ。結構な施設が、なかなかイイ具合に残ってんな……〝研究所〟か? 珍しいや。缶詰でもありゃ最高、せめて相棒の燃料食いモンでもありゃ上々だが……さてさて」


 一人旅に、独り言の多い、オーサンが。


 バイク備え付けの荷物入れから取り出したペンチで金網を破り、施設に足を踏み入れるのだった――……。

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