第22話 悪くない手
すっ、と俺に手を向けるルリィ。
一体どんなスキルが発動するのかと思い待っていると、ガキんちょは大きく息を吸い込んだ。
「ウォーターストーム!!」
迫りくる、多量の水を含み弾けさせる竜巻。
その様はまるで大瀑布を無理やり回転させて突撃させているかのようだ。
ふむ、今度は水と風の複合技か。
さっき見た炎と風の合わせ技と同じく、今回も単純な基礎スキルを掛け合わせ、そこに大量の魔力を注ぎ込んで繰り出したゴリ押し戦術。
あいつ……頭を使えって言ったそばからこれか?
属性の組み合わせを変えたことが頭を使った部分だなんて言ったりしねぇよな?
それならさすがに頭悪すぎるぞ。
「炎だろうが水だろうが、俺の影打の前じゃ同じだっての!」
ルリィの頭のレベルを信じつつ、俺は先ほどと同じように眼前を埋め尽くす水流の竜巻を影打で両断した。
ザンッ、と縦一閃に断裂する竜巻。
バシャバシャと豪雨のような水しぶきを浴びながら、顔を上げる。
「おい、まさかこれで終わりじゃ――……っ!?」
「これなら避けられないでしょ、馬男!!」
……そういや忘れていた。
ルリィが出現させた二本の大剣――バスターブレード。
一本はさっきルリィが爆発させたため消失。
あのガキんちょ自身を盾にするという俺の奇策によって無効化したが、まだバスターブレードはもう一本残っていた。
ずっとルリィが左手に持ち続けていた大剣。
それを今、ルリィはピッチャーのようなモーションでバスターブレードを振りかぶっていた。
俺とルリィの間の空間、その左右には俺が両断したウォーターストームの残骸が残っている。
まだ完全に消失するまでの時間が経過していないからだ。
体感で、ようやく一秒。
にも関わらず、ルリィの動きが速すぎる。
これは俺の行動を先読みしていなければ説明がつかない。
「決め打ちかッ! 俺がウォーターストームをもう一度両断することを見越して、それに合わせてバスターブレードを投擲する気だな!?」
なるほど、思ったよりも考えられている。
さっきと似たような攻撃で俺を油断させることができる上に、何より巨大なウォーターストームで俺の視界を塞ぐことでルリィの本当の目的――バスターブレードを投擲する予備動作を隠すことができる。
つまりこのウォーターストームは、二重の罠が仕掛けてあったということだ。
「今度こそ爆ぜるといいわ! バスターブレード!!」
名投手の豪速球よろしく、とてつもない速度で投げられるバスターブレード。
自分の身の丈以上のデカさだっていうのに、本当に野球ボールを投げるかのようなスピードで投擲してくる。
しかもすでにバスターブレードの剣の部分は赤黒く変色しており、ぶくぶくと輝いていた。
あれはもうすでに爆発寸前。
しかも今回は俺とルリィとの間に距離が開いているせいで、俺の奇策であるルリィを盾にして爆発を凌ぐ戦法も封じられている。
「へえ、悪くない手だ。だが、まだまだ甘ぇぞ!!」
空間を切り裂くように直進するバスターブレード。
その切っ先は俺の首元へ狙いを定め、今にも爆発せんと赤黒い輝きを漏らしている。
この状況、凡人の選択肢としては黒刀で受け止めるか、バスターブレードを回避するかのどちらかだろう。
だが、それでは不十分だ。
なぜなら、どちらの選択肢を選んでもバスターブレードの爆発を防ぐことはできず巻き込まれてしまう。
ゆえに俺は、全力で前に駆け出した。
向かってくるバスターブレードの剣先に対して、こちらからも猛スピードで近づいていく。
「はぁ!? 自分から突っ込んでいくなんて、死ぬ気!?」
ふっ、まさか。
俺は剣先が直撃する寸前で最小限の動きをもって回避する。
馬のたてがみを掠めていく大剣。
俺は数センチの距離ですれ違うバスターブレードの柄の部分を空中でキャッチした。
同時にそのまま力任せに引き寄せ、弧を描くように、ぶぅん! とバスターブレードを無理やり回転させる。
莫大な遠心力。
その力学的なエネルギーを最大限利用しながら、本来大剣が向かっていた方向から百八十度回転したところ――つまり投擲を行ったルリィに向けてバスターブレードを投げ返した。
バスターブレードは急激なUターンを経て、マスターであるガキんちょに向かって突撃していく。
「はあ!!? ち、ちょっ、そんなこと――」
――ドガガァァァアアアアアアアアアアン!!!
自分が投げた爆破寸前のバスターブレードを投げ返されるという予想外の状況に直面し、ルリィは思考を切り替える暇もなく巨大な爆炎に呑み込まれていった。
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