第21話  スキルの性能


 完璧な俺の策略。

 一度見ただけのルリィのユニークスキルを俺は影打の刀一本で完全に攻略してみせた。

 これで圧倒的な実力を見せつけることができただろう。

 それで降参してくれれば皆が納得して終わることができるんだが……どうやら現実はそう上手くはいかないらしい。


「ゆ、許さないわよ! 瑠璃の体を、あ、あんなに無遠慮に触りまくって……!」

「なんだ、たかがガキんちょの脇腹をちょっとまさぐっただけじゃねぇか。いきなりよく知らん相手に爆破攻撃かましてくる奴よりはマシだろ」

「それは模擬戦なんだから当たり前でしょ! あなたのは立派なセクハラなのよ!?」


 ルリィは地団駄を踏みながら怒りを全身で表現している。

 いつもはメスガキキャラで上から目線の態度を貫いてるが、中身はまだまだガキだな。

 てか、ルリィのあんな表情は中々見られねぇんじゃないのか?


 配信を見てる視聴者の反応を確認してみる。


 :馬ぁああああああああああああああ!!!!

 :あいつ、ついにルリィのお腹にまで手を出しやがった……!

 :ワイもルリィにしがみつきたい

 :ちょっと藁人形買ってくる

 :豚箱にぶちこまれろクソ馬が!!!!!

 :馬なのに豚箱とはまた珍妙

 :いま三十万なら手元にあるんだけど、これで殺し屋って雇える?

 :ルリィガチ恋勢さん、一応ここ彩夏様のチャンネルなんで……


 コメントが追いきれないほどのスピードで目まぐるしく動いていく。

 さっきのルリィを利用した回避行動はかなり反響を呼んだみたいだな。

 雰囲気から察するに悪い方の反響だろうが。

 ここは彩夏のチャンネルだってのに、どこから聞きつけたのかルリィ信者までかなり沸いてるみたいだし。

 そいつらが発狂しすぎて荒らし行為じみた状態になるくらい錯乱してるぞ。

 やれやれ、大丈夫かこいつら?


「ったく、セクハラだなんだと大げさな。心配すんなよ。誰もお前みたいなガキんちょに興味ねぇから」

「ぶっ殺すわ!!」


 ムキー! と目を吊り上げて激怒するルリィは、俺に右手を向けてきた。


「これでも食らえっ! ファイアストーム!!」


 襲い来る、指向性を持った烈火の暴風。

 人の身など簡単に呑み込んでしまうほどの竜巻が、火炎をまといながら俺に向かってくる。


「へえ、炎と風の複合技か。どっちも基礎スキル程度だが、魔力を投じて威力と規模を底上げしてるな」


 多彩な攻撃だ。

『新世代』と戦うのは初めてだが、大仰な名称で持て囃されているだけはある。

 技のレパートリーが非常に多い。


「……だが、彩夏の下位互換だな。影打かげうちッ!」


 縦一閃。

 黒刀を振り下ろした。

 竜巻の先端が影打に接触した瞬間、刀の軌跡に合わせてぱっくりと上下に裂かれる。

 火炎をまとった竜巻は俺の両脇に逸れていき、やがてかき消えていく。


 竜巻が消失したことで再び垣間見えたルリィの表情は、さっきまでの怒りから驚愕に変わっていた。


「う、嘘……。竜巻を、……!?」

「不思議か? 一応この黒刀――影打かげうちも俺の貴重なユニークスキルなんでな。お前のバスターブレードと同様、普通の武器じゃねぇ。それなりの異能が備わってる」

「っ。デタラメな能力ね!」

「そうでもねぇさ。あんまり使い勝手がいいタイプじゃねぇし。能力面で言ったら、彩夏や学園長の方が絶対便利だぞ」


“最強”の集まりだと言われた『FIRST』のメンバーの中でも、俺はそこまで特筆するほどスキルの才能に恵まれていた訳じゃなかった。

 スキル性能だけで順位付けをしたなら、俺は『FIRST』でも下の方だろう。

 だがしかし、勝負というのは必ずしもスキルが優れているから勝てるというものでもない。


 ルリィは僅かに表情に陰を落とした。


「……そもそも、さっきから比較対象がおかしいのよ。火室ひむろ先生に学園長なんて、どっちも元『FIRST』じゃない。そんな人たちに勝てるわけない……というより、勝てなくて当たり前。比べることすらおこがましい。そういう存在なんじゃないの……?」

「あ? お前らそんな風にあいつらのこと見てんのか?」

「だ、だって、前に火室先生と模擬戦をした時なんか手も足も出なかったもん……。学園長とは戦ったことはないけど、人類唯一の『魔法使い』だなんて呼ばれてるくらいなんだからきっとスゴい人なんでしょ」

「うーん、まあたしかに学園長の方はちと厳しいかもしれんが、彩夏ならまだどうにかなるぞ? あいつくらいなら工夫次第で『絶望的』な状況から『若干不利』くらいのところまでは持っていける」


 ギロリ、と二階席から威圧的な視線を感じる。

 こわっ。

 俺は気づかないふりをしつつ、ごほんと咳払いをした。


「要は戦い方だ。もっと頭を使え。工夫しろ。単発のスキルで押しきるだけじゃ、いずれ限界がくるぞ」

「工夫……」


 ルリィは何かを考えるように僅かに視線を落とすと、再び馬の目玉と視線を合わせた。

 ちょっとは頭を使って、なにか策でも思いついたのかね?


 心の中で呟いた俺の疑問に答えるように、ルリィは膨大な魔力を練り上げはじめた。



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