第20話 知略と書いてセクハラと読む
ルリィの周囲の空間がぐにゃ~っと歪んでいく。
あれはバスターブレードとかいうユニークスキルが発動する予兆だったか。
だが、今回はさっきまでとは少し雰囲気が異なっている。
どうなるのかと様子を見ていると、ルリィはおもむろに両手を八の字に開いた。
遅れて、その手のひらに収まるようにそれぞれ一本ずつ、計二本のバスターブレードが出現した。
「へぇ、二本の大剣か」
「ふふん、驚いた? 瑠璃が一度に出せるバスターブレードは一本だけじゃないのよ!」
「やれやれ、これだから天才は嫌になるぜ」
あいつの探索者階級は二級だそうだが、魔力量と魔力濃度だけ見れば普通に一級レベル……下手すりゃギリギリ特級の下位くらいには食い込めるかもしれんな。
少なくともこれだけは事実だ。
魔力量と魔力濃度に置いては、俺よりもルリィに圧倒的な分がある。
「覚悟しなさい馬男! とりゃあああああああ!!」
とても二本もの大剣を手にしているとは思えない速度で俺に詰め寄ってくる。
身体強化、速度上昇、多重防御スキル。
魔力とスキルの大盤振る舞い。
あんな無計画に魔力を消費すれば普通ならあっという間に魔力切れが起きるはすだが、ルリィはその様子を毛ほども見せない。
まだ魔力に余裕があるようだ。
迫りくる二双の大剣。
俺から見て左側――ルリィの右手に握られ、掲げられた大剣が再び俺を両断せんと振り下ろされる。
超絶な既視感。
てか、これさっき俺がバスターブレードの爆発を受ける直前のパターンと一緒じゃねぇか。
別に回避してもいいんだが、一応こいつにも何か策があるかもしれないのでもう一回黒刀で大剣を受け止める。
ガキィン! と金属性の轟音が俺とルリィの間で鳴り響いた。
「おい、これさっき見たぞ」
「さっきは何もできずに食らったじゃない! 今度こそこれで沈めてあげるわ!」
「……まさかマジで同じ攻撃するつもりか?」
「当たり前よ! 瑠璃のバスターブレードは分かってても防げないでしょ!」
俺の頭上で火花を散らす黒刀と大剣。
次第に、
うわー、また爆発しますやんこれ。
だが、さっき一度体験した攻撃だ。
確かに破壊力は見事なものだが、俺はすでに対処法を思いついている。
大剣からぶくぶくと不吉な光が漏れてくる。
もう爆破寸前。
「このまま弾け飛ぶがいいわ!」
「……ったく、一回攻撃が成功したからって調子づくのもほどほどにな!」
大剣から漏れ出る赤黒い光が最高潮に達する。
その瞬間、俺は黒刀を手放して足の筋力をメインに魔力で最大限の身体強化を行い、低く屈んで真っ正面に立つルリィの真横に直進する。
俺がルリィの脇腹付近に潜り込んだと同時、大剣が爆発した。
爆風を背中で感じる刹那、俺は全力で左に重心を傾けて背後からルリィの制服にガシィッ! と、しがみつく。
「ひゃあ!?」
視界が赤黒く爆ぜ、同時に空間の重量が数倍に跳ね上がる。
辺り一帯を破壊し尽くす爆発だが、俺はルリィの背後から細い両脇腹ごと制服を鷲掴みにして爆発を凌いだ。
ルリィの肉体自体が、爆破から身を守る優秀な盾の役割をしてくれている。
爆風で体は宙に浮くものの決してルリィの制服から手は離さない今の俺は、まるで暴風に煽られる鯉のぼりのような感じになっているだろう。
ほどなくして、爆発は沈静化していく。
が、今度はルリィが真っ赤になって振り返った。
「ち、ちょっと! さっきからどこ触って――」
「今の爆破攻撃は並みじゃねぇ威力だ。だからこそ相手には甚大なダメージを与える武器として使うことができる訳だが……それは言い換えれば自分にも同程度の被害が及ぶことを意味している」
「は、はあ!?」
「さっき俺がバスターブレードの爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされた時、お前は舞い上がった煙の中から平然とした様子で歩いてきたよな。だが、これはよく考えると奇妙だ。お前の倍は体重があるはずの俺が軽々吹っ飛ばされるほどの爆風なのに、何故お前は吹き飛ばされもせず何事もなかったかのように無傷で平然と現れることができたんだ? 俺と同じ爆心地にいたっていうのに」
「し、知らないわよそんなこと! いいから離れなさいよ!!」
腰にまとわりつく馬男を振り払おうと体をぶんぶんと揺らすルリィ。
俺は頃合いを見て、ルリィの制服から手を離して距離を取った。
「答えは簡単。お前は自分の肉体に被害が及ばないように強力な防御スキルを重ねがけして、さらに爆風に巻き込まれないよう何らかのスキルで体を固定していた。これは多分、重力操作系のスキルか? 爆発の瞬間だけ自分の肉体にかかる重力を増やして吹き飛ばされにくくしていたんだろう。それと同時に身体強化系のスキルで筋力を増強して踏ん張ってたってのもあるだろうがな」
「い、いや、は? あなた、な、なにをしたのか――」
「お前の足元を見てみろ。それが答えだ」
ルリィの両足は、グラウンドに小さなクレーターを作っていた。
あれは地面が凹むほどの強い重力下に自身の肉体を置いた結果、生まれたものだろう。
「だ、だからそうじゃなくて、瑠璃のわ、脇腹とかべたべた触ったことは――」
「つまり! バスターブレードの爆破攻撃への対処法は、爆発する瞬間にお前の後ろに回り込んで防御スキルの恩恵に
俺は黒刀を手元に出現させ、ビシッと切っ先をルリィに向ける。
「グハハハハハハハハ!! どうだこの機転! この発想力! お前のバスターブレードは俺様の圧倒的知略の前に破れ去ったのだ!!」
「こ、こいつっ……!」
ルリィは顔を赤くしながらぷるぷると体を震わせている。
はっはっは、悔しそうなその顔、ごっつぉさんでーす!!
俺は煽るように創作ダンスを披露する。
「ほらほらどうした? もう終わりか? 終わりだよな? てか、ちょっと吐き気してきたからこれで終わってくれ」
さっきは突然の事態だったので意識が戦闘に持っていかれていたが、少し冷静になると激しく動いた余韻で二日酔いがぶり返してきた。
頭痛と吐き気が俺を苦しめる。
ちょっと創作ダンスはストップだ。
脳みそが揺れて気持ち悪い。
さあルリィ、実力はもう分かっただろ。
これでとっとと降参しろ。
心の中で唱えた俺の願いは、怒りの表情を浮かべたルリィが大剣をぶんっと薙いだことで無惨にも散ってしまった。
「バ、バカなこと言わないで! こんなセクハラだけされて終われるわけないでしょ! 瑠璃の本気はこれからよ!!」
ルリィはキッと俺を睨みつけながら、無機質な大剣を俺に突きつけた。
ガキんちょの復讐はまだ終わらないらしい。
心なしかさっきよりも殺意が増したような気もする。
なんでだ?
……うぷっ。
あ"あ"あ"ぁ~、気持ち悪っ……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます