第18話  『新世代』との激突


「たかが視聴者のコメントごときであんなに狼狽えるとは……ふっ、アイツもまだまだだな」


 二階の観覧席で馬男とのよからぬ関係について必死に否定している彩夏を地上から眺め、真っ正面に立つ二人のガキんちょ共に視線を移した。

 二十メートルほどの距離。

 それだけの空間を開けて対峙するルリィは俺に向けてビシッと指をさし、心春は緊張した様子で頭を下げた。


「火室先生も開始の合図を出してくれたようだし、始めるわよ!」

「よ、よろしくお願いします、馬男さん!」


 生意気なメスガキと、歳に似合わぬ礼儀正しさを有した清楚系少女。

 何とも対照的な態度だが、今の俺にとっちゃ生意気だろうが礼儀正しかろうがどっちでもいい。

 とにかく一秒でも早くこの模擬戦を終わらせて、二日酔いの体を労りたいのだ。


「ああ。いつでもいいぜ。先手は譲ってやるからさっさと来いよ」

「……それはどうも。ねぇ、最初に聞いておこうと思うんだけど、あなたとはどれくらい本気で戦っていいの?」

「あん? どういう意味だ」

「瑠璃たち『新世代』は、学校の授業でも基本的に力の大部分を抑えて取り組まなくちゃならないって決められてるの。そうしないと、他の生徒に被害が及んじゃうかもしれないから。特に瑠璃はその制約がキツいから、全力を出していいのはスキル測定の時か、特級探索者の人と実戦練習をする時だけなんだけど」


 ああ、忘れてたけどそういやコイツは類いまれなる才能を有した『新世代』の中でも筆頭格だったか。

 たしかに歳の割にはかなり強い。

 俺のスキルが発現したのは十五歳の時だったが、その時に戦っていれば恐らく俺の方がボコボコにされてただろう。

 だが、現時点の俺とルリィを比べたらその差は歴然だ。


 返答を少し考えたが、すぐに考えるのが面倒くさくなったので適当に返事をしておく。


「彩夏も何にも言ってなかったしな。別にお前らの全力を出せばいいんじゃねぇの?」

「全力? 本当に瑠璃たち二人の全力をあなたにぶつけていいってこと?」

「だからそう言ってんだろ。俺を人型モンスターだと思って殺す気で来いよ」


 そうじゃないと仮にこの模擬戦で勝利したとしても、あの時は力をセーブしていただの、俺に気を遣って本気を出していなかっただの言い訳を垂れる可能性があるからな。

 勝手に一人で言い訳を垂れてるだけなら別にいいんだが、自分の敗けを認めたくなくて今後何回も俺に勝負を挑んで来るようになったら面倒くさい。

 それを回避するためにはとにかく一発目から本気で戦わせて、あいつらの『新世代』という自信もプライドもバキバキにへし折っておく。


 軽い口調で答えた俺の言葉にどんな感情を抱いたかは知らないが、ルリィは心春こはるに向き直った。


「……心春。共闘しようとか言っておいてごめんなんだけど、最初は瑠璃が一人で戦ってもいいかな。あの馬男と瑠璃の間にどれくらい差があるのか確かめたいの」

「瑠璃ちゃん……。うん、もちろんいいよ! 元々私はただの見学のつもりだったし。最初は大人しくしておくね」

「ありがとう心春! それなら瑠璃は心春の出番が来る前に馬男を打倒できるよう頑張るわ!」


 再び、ルリィが俺と対峙する。

 ガキんちょは細い右腕をおもむろに広げた。

 膨大な魔力の気配が一気に訓練場に充満していく。


「初手から遠慮なくいかせてもらうわよ! ユニークスキル――バスターブレード!!」


 ルリィの右手を中心として大きな亜空間が現れ、ぐにゃぐにゃとひずむその空間から剣が出現した。

 それも普通の剣ではない。

 およそ十歳そこらのガキんちょが持つには全く相応しくない、巨漢の荒くれ者が担いでいそうな無骨な大剣だった。

 洗練さや機能美などは捨て去ったような、敵を物理的に押し潰し、力任せに断絶するような武器だ。


 ほう、さすがは『新世代』筆頭。

 昨日のダンジョン内では俺が攻撃スキルを封印させていたからルリィがどんな攻撃手段を持っているか分からなかったが、中々に凶悪なユニークスキルを持ってやがる。


「瑠璃の攻撃にひれ伏しなさい馬男!」


 ルリィは木刀のようなノリで大剣を片手に猛スピードで距離を詰めてくる。

 べらぼうな魔力で身体能力も大幅に底上げされてるようだな。

 特に移動速度が凄まじい。

 馬の被り物をしてる俺は視界の制限を食らっているため、気を抜けばすぐに見失いそうになる。


 なるほどな。

 自信過剰になるのも頷けるくらいの天性の能力だが……まだまだ甘い。


 約二十メートルの距離を瞬く間に殺したルリィは俺の眼前で跳び上がり、これみよがしに大剣を振り上げる。


「この一撃で終わらせてあげるわ!」

「やってみろガキんちょ! ユニークスキル――影打かげうちッ!」


 俺は自慢の黒刀を顕現させ、ルリィの大剣を受け止める。

 ガキィン! と金属同士を思い切り打ち付けるような音が鳴り響いた。

 俺も魔力で身体強化はしているが、それでもかなり重い一撃だ。

 だが、別に脅威というほどでもない。


「あはは! かかったわね!!」


 渾身の一撃を平然と受け止めた俺を見下ろしながら、ニヤリと煽るような笑みを浮かべる。

 次の瞬間、ルリィのバスターブレードの剣先がじわじわと赤く熱せられ、大剣全体が朱に染まっていく。

 バスターブレードの内側から、マグマが泡立つようにぶくぶくと赤黒い光が漏れ始めた。


 なんだこりゃ?

 疑問が脳裏をよぎったと同時、バスターブレードの真価が炸裂する。


 耳をつんざくような爆音と共に、俺の全身が灼熱の爆炎に呑み込まれた。




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