第14話 二日酔いと社会の厳しさ
朝日がジリジリと顔を照らす。
その明るさは目蓋を通して瞳を刺激し、意識を急浮上させた。
目を覚ますと、清潔感あふれるホテルの天井。
「あ"あ"あ"ぁ~、頭いってぇ~……」
起きようとした瞬間、ズキン! と頭が痛む。
それに喉もカラカラだ。
体もダルいし、なぁんにもやる気起きない。
確実に昨日の焼肉と豚骨ラーメンとビールが効いている。
「いま何時だ……?」
時間は午前の十一時。
ん~、いつもよりはかなり早起きだ。
普段は3時のおやつに朝飯をぶちこむような素晴らしき昼夜逆転ライフだったからな。
やっぱり新環境ってこともあってどっか緊張感が抜けなかったのか……ってことはねぇな。
単純に二日酔いだわ、これ。
「あ"あ"~、クッソ……! 気分わりぃ……」
ズキズキする頭を押さえながら、寝起きと二日酔いのダブルパンチで朦朧とする意識を何とか維持。
……しようかと思ったけど、これはムリだわ。
ちょっと体がしんどすぎる。
「まあいいや。どうせ予定もねぇし、このまま二度寝でも――」
「するわけないでしょこの堕落クズがぁっ!!」
「ぐはぁああああっ!?」
突如俺の腹に繰り出されるパンチ。
ベッドの上でV字に体が折れ曲がる。
強制的に意識を叩き起こされた俺は、ベッドの横から凄まじい熱気を感じた。
「げほっごほっ! お、おま、彩夏!? なんでここに……」
「学園長の口利きで特別にアンタの部屋だけで使えるキーを貰っておいたのよ。万が一バックレられたら困るからねぇ!」
「ふざけんなよ! 俺のプライバシーはどうなってんだ! しかも教師ともあろう者が男の部屋に不法侵入して、こんな非常識なことをするなんてどういうつもりだ!」
「アンタこそ仕事をほったらかしてどういうつもりよ! 昨日私がデバイスに今日のスケジュールを送っておいたでしょう!」
「なにぃ!? 今日のスケジュールだと!? んなもんは知らん――」
言いかけて、俺ははたと動きを止める。
たしかに昨日、彩夏が別れ際に車の中から俺のデバイスにスケジュールを送るとかなんとか言っていたような記憶が朧気にある。
……やば、完全に忘れてた。
昨日は肉とビールとラーメンに溺れた後はそのままホテル直帰して爆睡してたから全く見てねぇわ。
なんなら風呂も入ってねぇし。
「その顔、アンタ目を通してないわね」
「……はい。すんません」
彩夏はクソデカため息を吐いたあと、見下げた目で俺を見る。
「早速だけど、十三時からダンジョン配信部の活動をしてもらうわ。だからさっさと用意しなさい」
「十三時から? なんだ、今は十一時だぞ。まだまだ時間あるじゃねぇか」
「部活の前に準備しておくこともあるでしょう! そのために少し早く出るのよ! 社会人として常識!!」
「やめろ……そうキンキン怒鳴るな。頭に響く……!」
二日酔いでグロッキー状態の俺に労働をさせようとは、やはりこの女鬼畜……!
俺は喚く彩夏の声を聞こえないよう耳を塞ぎ、のそのそとベッドから降りる。
だらしない俺とは対照的に、彩夏はピシッとスーツに身を包み脇腹に手を当てて俺を糾弾している。
妙にスタイルが浮き彫りになるタイトめなスーツは朝からエロい気分になるからやめてもらえます?
「分かった分かった。今から準備するからちょっと待ってろって」
「さっさとしなさいよね! 私も暇じゃないんだから!」
「あ、シャワーとか浴びた方がいいか? 昨日風呂入ってねぇんだけど」
「はぁ? きったないわね。それに酒臭いし。そんな状態で生徒の前に立つなんて許されないわ! さっさとシャワー浴びて身を清めてきなさい! でも時間がないから五分で済ませるように!!」
「二日酔いの人間に無茶言うなよ……」
ゾンビのような状態で立ち上がり、とりあえず風呂場へと向かった。
うぅ、これが社会ってやつなのか。
今まで無職で社会からは逃げてきた人生だから、こんな辛い思いは初めて経験した。
やっぱり顧問教師なんて引き受けたの失敗だったか……?
冷静に考えてニートと教師なんて対極の存在だろう。
今からでも辞職でもしよっかな。
でも祝い金の三百万貰っちゃったしなぁ……。
「ここで待っててあげるからシャキシャキ動いて準備しなさいよー!!」
眠気と頭痛で混濁してまとまりのない意識に、ベッドルームから響きわたる女の声が突き刺さる。
キーンと脳みそを貫通する甲高い声にげんなりしながら、のそのそと着ていた服を脱いでバスルームへと入っていった。
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