第6話 秘密の抜け道
俺なりにルリィを守りながらダンジョン攻略を進めること三十分。
ついにダンジョン上層である第五階層にまで到達した。
道中いくつもの転送魔法陣のトラップが発動したが、これだけ潜ればダンジョンの特性も大まかに二つ見えてきた。
一つ目、このダンジョンにはミノタウロス系統のモンスターしか現れないこと。
二つ目、S級以上のランクを持つミノタウロスが上層階でも普通に出現すること。
ミノタウロスが上層階に現れるなど普通は考えられない。
そもそも一般的なダンジョンではミノタウロスに出会うことは絶対ないし、踏破レベルSのダンジョン最深部にまで行ってようやくお目にかかれるかというほどの危険かつ希少なモンスターだ。
それがこうもポンポンと転送魔法陣から送られてくるとなると、やはり俺の見立て通りこのダンジョンの踏破レベルはSS程度と見た方がいいだろう。
ガキんちょ一人引き連れてSSダンジョンから脱出とは……嫌でも十年前を思い出す。
「よし、ちょっと止まれ」
「はぁ?」
先導していた俺は走りをゆっくりと減速させ、立ち止まる。
少し離れて後ろから着いてきたルリィが、不満そうに声を漏らした。
「……たしかこの辺りだったな。ここからは歩いていくぞ」
「なんでよ! ようやく第五階層まで着いたんだから、出口はもう少しじゃない!」
ルリィは気が立った子犬のようにキャンキャンと吠える。
第十四階層に上がるところで遭遇したミノタウロス亜種の流れ弾を食らってから、ずっとこの調子で俺にキレていた。
全く、うるさいガキんちょだ。
コイツの生まれ持った魔力量を防御スキルに全投入すればミノタウロスごときの攻撃なんて大したことはない。
だからミノタウロスだろうがその亜種だろうが、数発の斬撃を食らったところでびくともしないはずだ。
それなのに自分が被弾したことを俺のせいにするとは、いかに『新世代』の天才といえども……いや『新世代』の天才だからこそ今まで大勢の大人に守られてきたことが分かる。
実戦をまるで理解していないザコ。
あ、もしかして真っ正面からザコとか言っちゃったから火に油を注いだのか?
まあでも、意図は説明しておいた方がいいか。
コイツも一緒に通っていくルートだしな。
俺は手をダンジョンの壁に滑らせながら歩き出す。
「お前は知らんだろうが、この東京第十ダンジョンには迷宮省職員だけが通れる非常用通路がある」
「非常用通路……?」
「ああ。何か緊急事態があった場合に上層階をショートカットできるよういくつかポイントごとに極秘ルートを設置してあるんだよ」
「そ、そんな話聞いたことないんだけど」
「当たり前だ。だから極秘ルートって言ったろ。万が一にも一般の探索者に見つからないよう、超精巧にダンジョンの壁面と同化するよう作られてる。しかも所定の手順を踏まないと開かないから、そもそもルートの存在を知ってなきゃたどり着きようがない」
そしてこのルートを教えられるのは迷宮省でも一部の職員のみ。
特級探索者でも恐らく全員には開示されていない情報だ。
「でも、瑠璃の空間把握のスキルには何も反応しなかったよ。今日だってモンスターが隠れていないかこの辺りを空間把握で調べたし!」
「ああ、どんなスキル使ってもこのルートを探知するのは不可能だぞ。何たってこの極秘ルートを秘匿してるのはスキルじゃなく、『魔法』だからな」
「魔法? でも魔法はモンスターしか使えないはずじゃ……あっ」
「一人だけいるんだよなぁ。人間の身で魔法を行使できる腹黒女が」
かつての同僚の一人。
あの胡散臭い笑顔を見ると体がぞわっとする。
「あいつの魔法には、スキルの影響を無効化する類いのものがある。その魔法を極秘ルートの出入口に展開して隠蔽してんのさ。それにこのルートは現在は使われていない旧時代のモンだ」
「それなら、どうやってその入り口を見つけるのよ」
「だから今やってんだろ。魔法への対抗策はスキルじゃねぇ。“アナログ”だ」
「アナログ?」
「その入り口の横に目印をつけといたんだよ。ガリガリッと十字にダンジョンの壁を削ってな――――お、これか?」
ダンジョンの壁に触れながら移動していると、ざざっと異なる感触が指先に走った。
急いでその周辺を確認すると、壁面に薄く十字の切れ込みがある。
見つけた。
俺が刻んだ目印だ。
「あとはこの扉に魔力を流せば……この通り!」
目印の数十センチ左隣。
そのダンジョン壁に手をついて、強めに魔力を押し込む。
すると、ズズズズ……とダンジョンの壁が下から上に持ち上げられていき、真っ暗闇の細道が現れた。
「ほ、本当に抜け道がある……! な、なんでこんなこと知ってるの!?」
「ま、俺がよく使ってるルートだし」
「よく使ってるって……こんなところを!?」
「通常の出入口から入ると下層まで行くのに無駄な時間がかかるし、それに身分チェックを避けられねぇのがデカい。あんまり俺の情報は出回ってほしくないんでな」
「そんなに正体を知られたくないなんて……もしかしてあなた犯罪者……!?」
「ハッハッハ、どうだろうなぁ! 少なくとも正義のヒーローじゃないことは確かだが」
ルリィが自分の身を抱いて俺から距離を取る。
徹底的に個人情報を隠す俺が犯罪者ではないかと疑っているようだが、どう思われようが構わない。
あとはこのルートを通っていきさえすれば、ものの二、三分で地上に到達する。
「おい、明かり系のスキルはあるか」
「……ライトってスキルならあるけど」
「それじゃあ、そのスキルを発動してくれ。こっから先は道中に一切の光がないからな」
「…………わかった」
ルリィは手のひらの上にサッカーボールほどの大きさの光の球体を出現させる。
それと同時、隠しルートの扉がガコンと最上部まで開ききった。
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