春が来た11

 翌日のこと、眠っていたラディが目を開けると、ディープがじっと見ていて、彼は驚いて身じろぎした。

「うわ! なんだよ? 黙って寝顔を見ているなんて、悪趣味だろう」

「気持ち良さそうによく寝てたから、声をかけられなかったんだ」

 ラディはフッと小さく息を吐いた。たしかにそうだった。何も考えず、こんなによく眠れたのは久しぶりだと思った。


 ベッドを少し起こし、伸び過ぎた髪をわずらわしそうにかき上げたラディに、

「ラディ。エリンに怒られなかった? この前、君と話をつけてくると言って、すごい勢いで出て行ったから。それと、昨日、君と会って帰ってきたあと、ノヴァとエス、ふたりの雰囲気がなんだか変わった気がするよ」

「え? どう変わった?」

 ディープはちょっと考えて、

「なんというか、今まで閉じてたものが開いた感じ? 表情が明るくなった、と思う」

 ラディの表情がやわらいだ。

「良かった。うん、エリンにはめちゃくちゃ怒られた。……でも、胸の奥にある何かをグッとつかまれて引き戻されたというか、このままじゃいけないって思って、目が覚めた気がしたんだ」

 ディープは肩をすくめ、

「僕も怒られたばかりだ。エリンは家族の中で、いちばん怖いからね。怒らせたら誰も勝てないよ」

「確かにね」

 エリンに何度、救われてきただろうと、ディープは思った。

「とにかく良かった。お互い、少し前が見えたね」

 そう言うと、スッと椅子から立って、ディープは窓の外を眺めている。


「ディープ、今回のことではいろいろとありがとう。ふたりのことも。エリンにも感謝してると伝えて」

 ディープはふりむいて、

「僕は何もしてないよ。何もできなかったと言っていい。ノヴァとエスのことだって、結局、最後は君だろう?」

「君が何もしなかったはずがない。でも、そう思ってるとしても、感謝してるよ」

「……うん」

 少しの間、会話が途切れた。


「ラディ。考えてみると、僕達ずいぶん長いつきあいになるんだね」

「それはそうだろう。子供の頃、君が隣に引っ越してきて以来だから。でも、まだこれから先も続くからね。エスだけでなく、今度生まれる子の結婚式にも君は来てくれるんだろう? 目標が伸びて良かったじゃないか」

 ディープはクスッと小さく笑って、

「ありがたいことにそうなるね」

 外は寒い冬だけど、部屋の中は暖かいな、ラディはそのときそう思った。


 

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