春が来た2

 気がつくと、ラディはなんだか見覚えのある場所に立っていた。


(どこだろう、ここ……。よく知ってるような?)

 足の向くまま歩いていくと、子供達の声が響いてきた。

(ん……? サッカー、かな?)

 子供達がサッカーをしているグラウンドが見渡せる木立の下、ベンチに人影があった。

(え?)

 見覚えのある後ろ姿に、思わず名前を呼んでいた。

「……モーリ、ス?」

『彼』は驚いた顔でふりむいて、立ち上がった。

「ラディ!? どうして……?」


 風が吹いて、ザワッと木が揺れた。

 ふたりとも、出会ったあの日の少年の姿に戻っていた。


 モーリスは足早に近づいてきた。

 ラディの腕をつかむと、首をふり、泣きそうな顔で微笑んで、

「ラディ……ダメだ。会えて嬉しいけど、ここに来るには早いよ。君にはまだやることがたくさんあるはず!」

 そのまま、まわれ右をするように、今来た方へと身体が戻される。

「……さあ、戻って!」

 強いチカラで思いっきり背中を押され、押し戻される感覚があって……。


 *


(あ……)

 ボンヤリとした白い視界の中、ノヴァが泣きそうな顔でのぞきこんでいた。

「良かった……。もう戻ってこないかと思った」

(ディープが気づいてくれて……モーリスが戻してくれたのか)

「……エスは?」かすれた小さな声をノヴァは聞きとってくれた。

「エスは大丈夫よ」

「ごめ…ん、こんな……」

 こんなことになって、と言いかけたラディを制して、

「もうしゃべらないで」

 ノヴァは首をふった。

「あなたのせいじゃない。今は自分のことを考えて」

「……う……ん」

 言い終わらないうちに意識が沈んでいった。


 そのあとも、傷ついた脚、肺へのダメージと、治療には予断を許さない状態が続いた。


 

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