春が来た3

 エステルは奇跡的にかすり傷だけで済んで、その後の経過観察でも問題なかった。ノヴァとエステルは実家に戻ることにした。


 ノヴァの体調の悪さは続いていて、食欲が無く、無理に食べても受けつけない。

 その日も洗面所で口をすすいで、鏡にうつった自分の顔を見ると、

(ひどい顔……)

 心労のせいだと思っていた。


 廊下に出ると、エリンがいた。

「……母さん」

「ノヴァ。あなた、もしかして赤ちゃんができたんじゃないの?」

「えっ!?」(そういえば……!)

 少し前、エスに妹か弟がいたらいいねと話した。いつも比較的、規則正しく来るはずのものが、遅れていることに気がつく。


 ストレスのせいじゃない……。


「思い当たることがあるのね?」

「……うん」

「きちんと検査していらっしゃい」

「はい、母さん」


「おめでとうございます!」

 病院で、型通りに明るい笑顔で言われて、でもノヴァの気持ちは晴れなかった。

(どうしよう……。こんなタイミング、最悪……)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る