第34項 逃夜行
俺とイブキは、夜が開ける前にアジトを出た。
2人とも旅人っぽい服に着替え、黒いマントを羽織っている。
夜の市街地を駆け抜ける。
少しでも目立たぬように、一切の会話はない。
必要ないのだ。
すべては、アジトを出る前に段取りしてある。
途中、神殿区域の入り口に神官兵がいるが、ゲートのようなものはない。
宗教国家の建前上、この国にいる者は全てが信徒であり、区別したり隔たりすることは好ましくない、という教義上の理由からだ。
個人的にはどうかとは思うが、この際は有難い。
俺が教祖なら、身近な信者こそ疑うべきだと思うがな。
しかし、まぁ、きっと、女神様はそうは考えないということだろう。
そう考えると、転生の際に、俺の前に現れたのが悪魔だったことは、合点がいく。
なんで女神じゃないの?
美人女神とか普通に会ってみたいでしょ。
と密かに思っていたが、俺の精神は悪魔に好かれるってことなのだろう。
丘綾の中腹の少し手前で、壁の影に身を隠す。
20メートル程先には神官兵が
戦わずに勝つ。
誰か昔の偉い人が、そんなことを言っていた気がする。
それに死の町では力加減の練習なんてしてないし、間違って殺しちゃったら、死の王にアイツらの顔も追加されるんだろ?
嫌すぎる。
なので、俺は秘策を用いることにした。
それは、人類普遍の原理『お色気』作戦。
せっかく美人な相棒がいるのだ。
利用しない手はない。
ちなみに、イブキにこの話をしたところ、「おに! あくま! 人でなし!!」と半べそで口を尖らせていた。
無駄な犠牲を出さずに人命を救うためです、と真顔で言ったら素直に言うことを聞いた。なかなかにチョロい。
不覚にもなんかゾクゾクしてしまった。
メイがいなかったら、神官兵より先に俺がハニートラップにかかっていたかもしれん。
ということで、イブキに、スカートをズリ下げられ程々に露出した格好で、ブラの肩紐を押さえながらで突撃してもらう。
がんばれ。イブキ。
目指すは、主演女優賞だ。
あっ。神官の目の前で転んだ。
パンツ丸見えだ。
よし、ナイスアドリブ!!
神官どもを俗物へ堕とすのだ。
と、あまり調子に乗ってると、あとで各方面から詰められそうなので、ほどほどに。
イブキが神官兵を連れ出してくれたことを確認すると、俺は忍び足で、先に進む。
神官兵が離れるのを見計らって、イブキも追いかけてきた。
何か文句を言いたそうだったが、今は潜行中だ。
音を立てるのは良くない。
俺はイブキに、人差し指を立てて『シーッ』というジェスチャーをした。
このことはどうせすぐに忘れるだろう。
俺たちは前聖女の邸宅前についた。
ここのヤツらは、バカ正直に、重要施設を地図に書いていてくれるから助かる。
あれ?
見張りとかいないぞ。
なんで?
まぁ、居ないならそれに越したことはないんだが。
ん?
イブキが口を開けて俺の背後を指差している。
俺は振り返る。
……あぁ。なるほど。
コイツがいるから神官兵の見張りは不要なのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます