第31項 死出の旅

 

 ギルド会館に戻る。

 そして、さっきの大男の姿を探した。


 よかった。まだ居た。


 「おい。やはり、お前らに頼みがある」


 すると、男は申し訳なさそうな顔をした。

 「だから、あんたの力量じゃ……」


 「そんなことは分かっている。これは死出の秘薬だ。俺はこれからこれを飲む。

  そこで頼みなんだ。俺が本当に死んでしまったら、お前と神官でメイを助けてくれ。一生のお願いだ……」


 そこで魔法使いが、驚いた顔をする。

 「死出の秘薬。聞いたことがある。あれは、メルドルフ宝物庫に保管されている秘宝だと思ったが。

  なぜ彼がもっている。しかし、あれを飲んだら彼は死ぬぞ」


 俺は小瓶を開けた。

 男が制止しようとするが、その前に飲み干した。



 …………。

 ……。



 どのからか声が聞こえてくる。

 リリスだ。


 「馬鹿な男。だから、飲むなって遠回しに教えてあげたのに……アハハ。まぁ、苦労することだ。お前のような愚者には絶対に無理だからな」


 バカはお前だ。

 俺様の母国語の成績知っているのか?

 遠回しな言い方なぞ、俺には一切伝わらんぞ。


 言うならハッキリ言ってくれ。ハッキリと。

 



 目を開けるとそこは霧が立ち込める薄暗い森だった。


 森をずっと歩く。


 右手には剣が握られている。

 秘薬を飲んだ時に、身につけていたものだ。


 素手でなくてよかった。


 時々、濁った沼などがあり、

 動物のような鳴き声や奇声が聞こえるが、何も襲ってこない。


 そこからしばらく進むと、廃墟のような町に出た。


 住人を探すが誰もいない。

 食器や生活道具などは、使いっぱなしのまま散乱しているが、もう何年もそこに放置されているようだった。


 奇声が聞こえる。

 それと、人が泣き叫ぶ声。


 阿鼻叫喚とでもいうのだろうか。


 背後から何かが這いずるような音がする。

 振り向くと、次の瞬間、俺の意識は途絶えた。


 そして、さっきのスタート地点から始まった。


 それを何回か繰り返すうちに、分かってきたことがある。


 あの町は、シュゲットーという世界の死の町らしい。

 死出の秘薬を飲んだからな。


 悪人が死んだら行く地獄のような場所なのだろう。


 死の町には死の王がいて、それを倒すまでこの世界は終わらないらしい。


 そして、俺は町に向かい殺される。



 もう何百回繰り返したかわからない。

 既に、ここに来た目的も忘れかけ……る訳がない。


 何千年経っても忘れない。


 


 あれから、何十年経っただろうか。

 何度も何度もトライ・アンド・エラーを繰り返し、死の王を倒した。


 すると次の町が現れた。

 そこも死の町だ。


 また死の王を倒す。


 するとまた次の町が現れる。

 もう数十の町を通過し、数十の死の王を倒した。


 俺はその何十百倍もの回数を死に、絶望し、渇望し、熱望した。


 ある町では、全ての者が舌を切り取られ死んでいた。

 そして、またある町では、全てのものが局部を切り取られ死んでいた。


 そして、気づいたのだ。

 それぞれの町での悲惨な死に方は、それぞれの生前の罪を表しているのではないか。


 姦淫を働いた者は、あの町に集められ、永劫の間、局部を切り取られ殺され続けるのだ。


 だとすれば、町の数は生前の罪の数だけあることになる。


 俺の死の町は、だからこんなに多いのか。

 あと何十あるかも分からない。


 そして、次の町。


 その町の死の王は、他の町とは様相が違った。


 人間の死体の集合体。

 その中には、見知った顔がいくつかある。


 ああ、そうか。

 こいつらは俺が殺した人間達だ。


 ここは殺生の罪を贖うための町なのだろう。

 きっと、他者に与えた死の数だけ、俺はここで殺されなければならないのだろう。


 それから何度も何度も挑んだ。

 この死の王は、俺がここまでで身につけた技も、テクニックも全て熟知している。

 まるで、自分自身と戦っているようだ。


 死の王の右腕を切り落とし、左足を切り落とす。

 その度に、人のような絶叫が聞こえる。


 心が痛む。

 聞いていられない。


 こいつらは、俺のせいでこんなところに送り込まれ、

 何度も何度も痛めつけられ叫んでいるのだろうか。


 こんな地獄を終わりにしてやりたい。

 それが、せめてもの罪滅ぼしだ。


 死の王が怯む。

 その機を見逃さず、俺は、死の王の喉元を切り裂こうとする。


 きっと俺の剣は届かないだろう。

 ここまでいって、同じ状況で、今まで何度も殺されているのだ。


 だが……。


 メイの言葉が頭に浮かぶ。

 「ルーク様。知っていますか? 聖女のキスには特別な力があるんですよ?」

 


 メイ。

 

 メイ・ミューゼルよ。俺に力を貸してくれ。


 すると、右手の剣に光が宿った。

 淡くも力強く、神々しく光り続けている。


 この神聖力はメイのものだ。


 ……ありがとう。


 俺は、そのまま死の王の喉元を切り裂く。

 ついに、死の王の喉元まで届いた。


 しかし、いつの間にか復元していた王の右腕が俺の心臓を貫く。


 すると、俺の身体は燃え始めた。

 今までの無限ループでは、燃えたことはなかった。


 俺は、ここでコイツと相打ちになって死ぬのか。

 

 そもそもこいつを倒したら生き返るなんて、誰にも言われてないしな。

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