第30項 護衛探し
俺は冒険者ギルドにいた。
そこで、護衛をしてくれる女性を探す。
女性がいいのは、観光客を装うには男女の組み合わせが好ましいからだ。
男女のペアに依頼を出そうとも思ったが、信用できない。依頼料だけ持ち逃げされるかもしれないし、メイの顔を分かる者が必要だろう。
ギルドの受付が、何人かの冒険者に声をかけてくれた。
しかし、ほとんどの者が、俺の名前が出た時点で断る。
そして、残った者にもメルドルフと言うと断られた。
金で何でも請負うのが冒険者なのではないか。
やはり、俺が嫌われているからなのかも知れない。
それは自業自得だが、メイには関係のないことだ。受け入れられない。
首都のギルド本部で頼んだらどうかとも言われたが、そんな時間がない。
こうしている間にも、メイは捕まってしまうかも知れないのだ。
俺が受付で食い下がっていると、ギルドの扉が開いた。
「おおっ」という声があがり、皆がざわつく。
視線の先には4人の冒険者がいた。
1人は噴水でぶつかった男だった、
もう1人は例の女神官。
それに、東方の衣装をきた少女と、魔法使いのような少女だった。
そうだ。
あいつらだ。
魔王を倒しにいくような冒険者なら引き受けてくれるのではないか。
俺は、男に縋って頼む。
情けない姿だ。こんな姿、メイには見せられない。
だが、無力な俺にできることはそれしかなかった。
すると、男は俺の腕を持ち、ヒョイっと俺を立ち上がらせた。
「あんたはあの時の。まぁ、とりあえず立ち上がってくれ。それでどうしたんだ。俺らに頼み事か?」
俺はありのまま説明した。
下手に嘘をついて断られたら、後がない。
すると男は言った。
「そうか。そんなに必死に頼まれたら聞いてやりたいんだがな。だが、俺はメルドルフで顔が割れてしまっていてな。
俺自身が行くことはできないんだ。誰かを護衛として同行させることもやぶさかではないんだが……」
男は俺に値踏みするような視線を向ける。
「なぁ、あんた。俺と手合わせしてみないか? なぁ。マスター。裏の空き地を借りるけど、いいよな?」
俺と男は手合わせすることになってしまった。
試合は木刀での模擬戦だ。
「まいった」と言ったら負けとのことだった。
俺は試合の開始と同時に、男に切り掛かった。
両手で剣を持ち、相手の正面から右上から左下まで切り裂くつもりで振り下ろす。
すると、男は騎士らしく剣先を上に向けて剣礼の構えになる。
そして、剣の柄を四半時程の角度で時計まわりに回すと、俺の剣を外に逃していなした。
俺はバランスを崩したが、簡単に諦めることはできない。
左手で砂利を掴み、そのまま男の顔に投げつける。
視界を奪えば、一太刀くらいは入れられるかも知れない。
しかし、男は砂利を難なくかわし俺の左肩に剣を下ろす。
木剣はメリメリっと音をたて、俺の鎖骨の辺りにめりこんだ。
ボキッっと、身体の中に鈍い音が響く。
木剣でも骨を断つ威力。
これが一流の冒険者か。
騎士に任命だけされ、まったく修練しなかった俺とは格が違う。
こんなことになるとは……。
こんなことになるなら、ちゃんと剣の練習をしておけば良かった。
直後、男の掌打を受け意識が飛んだ。
目を覚ますと、額に絞った布をあてられ、ギルドの長椅子で横になっていた。
そうか。負けたのか。
「お疲れさん! 頑張ったと言いたいところだが、実力不足だな。わりぃ。俺の仲間は預けられないわ。他を当たってくれ」
神官は「ちょっと。あんた他にもっと言い方ってものがあるでしょう」と男を咎めている。
鎖骨の骨折は……、治っている。
神官か。高位の神聖魔法はさすがだな。
俺はギルドを後にし、屋敷に帰った。
自分でも肩を落としているのがわかるほど、落ち込んでいた。
屋敷に戻ると、寝室に籠る。
ああ、疲れた。
もうどうにでもなれ。
そう思ってベッドに身体を投げ出す。
すると、フワッと、メイの髪の毛の甘い香りがした。残り香だろうか。
「諦めていられない」
そうだ。おれの命は、とうにメイに捧げている。
これ以上、何を投げ出そうというのだ。
で、あれば、何度倒れても立ち上がる他ない。
あ、そういえば小箱。
何が入っているのかな。
聖女が残すほどのアイテムだ。
この状況をどうにかしてくれるかもしれない。
箱を開けた。
すると、神聖とは程遠い禍々しい色の小瓶が入っていた。
中にはメモが添えられている。
「これは、
聖女は千里眼をもっていたんだよな。
で、あれば、この薬は俺に必要で、生き延びられるということなんだろうか。
いや、聖女がどこまで見えていたのか分からない。
飲んだら死ぬ可能性は高い。
だけれど、俺に逃げるという選択肢はない。
メイがいなければ、生き延びる意味自体失われるのだ。
しかし……。
俺は冒険者ギルドに走って戻った。
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