第28項 メイとのデート

 

 そこにいたのは、聖騎士の鎧に身を包んだ赤毛の青年だった。傍には、白い神官服に身を包んだ女の神官がいる。


 大男は俺の肩の埃を払う仕草をする。

 

 「わりぃ。俺ら先を急ぐんでな。行くわ」


 そういうと俺が文句を言う間もなく、行ってしまった。


 すると、神官も何かいいながら男の後を追いかける。法服の背中に入ったウルズの紋が見えた。


 『ウルズ神官? 珍しいな』


 運命の女神ウルズは、豊穣の女神レイアとならぶ神格の高い女神だ。

 しかし、我が国ではウルズの信仰は廃れており、神官は珍しい。


 それに男の方も強そうだったな。


 そんなことを考えていると、メイが待ち合わせ場所にきた。黒いドレスを着ている。

 

 袖はシースルーでスカートは黒と白の布が重ね合わさったティアードデザインになっている。不思議と神官服のような気品をも感じるドレスだ。


 メイは俺に気づくと駆け寄ってきた。

 そして、自然にスッと腕を組んでくる。


 「お待たせ。店は予約してあるんだ。前からお前と行きたいと思ってた店でな……」


 待ち合わせ場所から5分ほど歩く。


 2人で歩いていると、見慣れた街の風景も特別なもののように感じた。

 

 俺様はメイの手をとると、兎の看板がぶら下がっている店に入った。


 席に着くと次々とコース料理が出てくる。


 もしかしたら、マナー的なヘルプが必要かな? とも思ったが、メイのテーブルマナーはスマートで、むしろ俺の方が下手なのでは? と思ったほどだ。


 メイがふと何かに気づいたようだ。

 「ルーク様、ルーク様。あちらにいるカップル知ってますか? ちょっと話題になってる人ですよ」


 メイの視線の先を見る。

 すると、さっきぶつかった2人だった。

 あれから着替えたのだろうか、ドレスアップしている。

 

 「あいつらがどうかしたのか?」


 「なんでも、魔王を倒しにいく冒険者らしいですよ。冒険者ギルドで話題になっていました」


 無駄に物知りだな、コイツ。

 なんで冒険者ギルドに出入りしている?


 「へぇ。強そうだもんな。メイはああいうヤツが好みなのか?」


 「まさか。そんな訳ないじゃないですか。わたしが気になるのは、あの女性の方です。神官ですよ。しかも、かなり高位の」


 「なんでお前にそんなことがわかるんだよ」


 「誰にだってわかりますよ。あの神聖力を見れば……」


 そうなのか?

 俺には全くわからんが。


 「俺には、かなりの美人ってことしか分からんよ」


 するとメイは頬をふくらます。


 「ルーク様は、ああいうタイプが好みなんですね……」


 ふてくされたメイも可愛い。

 お前より好みのタイプなんている訳がないのに。

 

 本当に楽しい時間だった。

 3度目のループは、この時間のためだったのではないかと思えるほどだ。


 メイは子供の頃の楽しい思い出を話してくれた。

 俺も自分の子供時代の話をした。


 時間を超えて、子供時代の自分達が「こんにちは」しているようだった。


 途中の露店で、ワインなどを買って

 2人で一緒に邸宅に帰る。


 いつもならメイはメイド服に着替えるのだが、今夜はそのままの服装でいて欲しい。


 メイド服になってしまったら、楽しい今の時間が永遠に終わってしまう気がしたのだ。


 サイドテーブルに食べ物を並べ、レストランの続きの時間を過ごす。


 ワインには暖炉の灯りが映っている。

 すると、会話が止まった。

 

 メイと目が合う。


 俺は照れ臭くて頭を掻く仕草をする。


 するとメイは、ウフフと聞こえそうな笑みを浮かべ。

 

 次の瞬間には2人の唇が重なっていた。


 メイが悪戯な表情を浮かべる。

 「ルーク様。知っていますか? 聖女のキスには特別な力があるんですよ?」


 俺は何も答えずメイを抱き抱える。

 そして、そのままベッドに押し倒す。

 すると、メイは頬を染めて幸せそうな顔をした。

 

 それからのことはよく覚えていない。

 ただ、メイとそうなることが嬉しくて。


 きっと、人生で一番幸福な時間を過ごした。


 

 …………。

 ……。


 ん。

 これは夢か。


 俺はいつの間にか眠ってしまったらしい。

 だけれど、手のひらには、まだメイの温もりが残っている。


 ふと視線を上げると目の前には女性が座っていた。


 あの顔を忘れるはずがない。

 俺をループさせた悪魔。


 リリスだ。

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