第27項 聖女のノート

 メイにノートを渡す。


 すると、メイはノートをパラパラみて口を押さえた。


 きっと、大半の記憶は取り戻しているのだろうが、幼い子供の視点と、ノートで語る大人の視点では、解釈も変わってくるのだろう。


 一通り目を通すとメイは口を開いた。


 「さっきは、このノートを取りに行ってくれたんですか?」


 「そうだ。そのノートはお前の役にはたちそうか?」


 「ありがとうございます。はい。子供の頃の記憶なので曖昧だったのですが、色々わかりました。それと最後のページが切り取られていたのですが……」


 「あぁ。それな。お前のお母さんから、俺様へのメッセージだったぞ」


 「そんなこといって、わたしの悲惨な未来が書いてあったんじゃないんですか? それで見せないように破ったとか……」


 相変わらず、勘違い力が高いヤツだ。


 「いやな。お前の処女を俺様に捧げるように書いてあったぞ? それと毎晩キスするようにもな」


 ……完全な嘘ではない。

 ちょっと俺様の願望を投下して盛っただけだ。

 演出的な深みを持たせたってやつだな。


 「しょ、しょ。じょじょですか?」


 それはどこぞの人気漫画の主人公だろう。

 しかも、なぜ、3回目になっていきなり濁点が入る。


 「お前、ボケに捻りがたりないな」


 「だって。しょじょって。母上! メイをなんだと思ってるんですか!!」


 こんどは心の声がダダ漏れだぞ?


 「母上? あぁ。お前、子供の頃はどんな暮らしをしていたんだ? 話せる範囲でいいんだが」


 「母上は聖女の家系だったんです。メルドルフでは、貴族に該当するものが、法灯相続ほっとうそうぞくという概念です」


 「ほう。法の灯。つまり、正しき信仰の灯火を後世に伝えるという意味か?」


 「はい。その法灯ほっとうにも序列がありまして、聖女の家系は、法王につぎ格が高いと言われていました。それで、わたしも大切にしてもらっていたんです」

 

 「聖女の力は血縁で引き継がれるのか?」


 「はい。一子相伝いっしそうでんで女子にのみ引き継がれます。わたしは正式な継承の儀は受けていませんが、それに代わる方法がノートに書いてありました」


 「それはどういう?」


 「メルドルフの大聖堂にある女神像の前で、正式な祈りを捧げることです」


 それって敵の本拠地に乗り込むってことだよな。

 おいおい。無理ゲーすぎだろ。


 「それ、きつくないか?」


 メイはクスッと笑った。


 「そうですね。わたしも、そこまでして継承しなくてもいいんじゃないかと思っています」


 「今日は、外で夕食を一緒にとらないか?」


 今日はなんとなくそんな気分だった。

 考えてみれば、メイと一緒に外で夕食をした記憶など、ほとんどない。


 まぁ、メイドと好んで外食をする主人など、そうそうはいないのかもしれないが。



 夕方前に街の噴水の前で待ち合わせをした。


 

 初デートのようにソワソワしてしまう。


 俺様は待ち合わせ時間より随分前に着いてしまったので、物陰に隠れて待つことにした。

 そう。主人がメイドよりも先につくなど、あってはならないことなのだ。

 

 すると、ドンッと後ろから誰かにぶつかられた。


 「ん? 誰だ俺様に向かって!! ころ……」


 「いやぁ、わりぃ。ちょっとよそ見をしてたわ。許してくれな! おい、イブキ。お前のせいだぞ!!」


 イブキ? かわった名前だな。


 振り向くとそこには、俺よりも頭一つ分は背は背丈のある大男がいた。


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