第26項 俺様にしかできないこと


  シスターは続ける。

 

 「聖女は、ある人の子供を身籠った。それがメイです。レイアは女神のため、聖女であっても結婚は禁止されていません」


  ほう。聖女は結婚できないのが相場かと思っていた。


 「しかし、聖女は処女を失うと力の大半を失う。そのため、結婚には事前に結婚の許可が必要とされています」


  俺は聞きに徹する。まぁ、何となく先の展開は想像がついてきた。


 「ですが、聖女の相手は既婚者だったのです。しかも、尊い身分のお方。だから、許可が下りるハズがない。そのため、聖女は幼な子を連れて逃げました」


  ちょっと予想以上の展開だ……。


 「結果、自己保身を図った父親に聖女は殺されました。ですが、わが子まで殺すことはできなかったのでしょう。あの子は記憶を封印され、その後、何年も幽閉されていました」


 どうやら、そこを誰か助けられたらしい。そして、友の子を探していたシスターが引き取ったとのことだった。

 シスターは、俺様の理解を待つと、話を続けた。


 「あの子は、ただ女神像の前で祈るだけで、女神像が光るのです。これほどまでに祝福を受けている者は見たことも聞いたこともない。わたしは、あの子は稀有とも言われた実母をも超える力を持っていると思っています。だからこそ、わたしはあの子には普通の女の子として生きて欲しかったのです」


 「メイはそのことは知っているんですか?」


 「いえ、直接話したことはありません。でも、あの神聖力です。もう、色々と思い出しているのでしょう。きっと、わたしを気遣って話さないのだと思います」


 シスターは俺様の手を握ってきた。


 「心の優しい子です。しかし、聖女不在のメルドルフにとって、メイのような存在は脅威でしかありません。メイを守ってあげてください」


 言われるまでもない。

 俺様はメイと会うために悪魔に魂まで売ったのだ。

 メイが殺されることなど、到底許容できない。


 最後に、シスターは俺にノートを手渡した。

 このノートは、母親が残したものだそうだ。

 俺の判断で、メイに渡して欲しいとのことだった。


 俺はシスターにお礼を言うと、孤児院を後にした。



 寝室(1番好きなスペース)に戻ると、ノートをパラパラとめくってみる。

 メイより先に、中身を見るのはちょっと罪悪感があるが、今回に限って言えば必要なことだ。



 すると、大体はシスターから聞いた話と同じような経緯が書かれていた。

 一点違うのは、父親が法王であると言うことだった。そして、ノートにはメイを本当に狙うであろうは、次の法王であろうと書かれている。

 

 法王は何年か前に代わっている。

 つまり、メイをもっとも脅威とするのは現法王ということだ。


 そのあとには、神聖魔法について記述があった。

 これは、メイにとって有益な情報だろう。やはり、このノートはメイに渡すべきだな。


 それにしても、この内容、まるで先を予見しているような記述が散見される。

 レイアの聖女には千里眼でもあったのだろうか。


 最後のページにはこうあった。

 

 「このノートを今手に取っているのはメイではないことでしょう。メイとはキスしましたか? 聖女のファーストキスには特別な力があります。あの子はきっと嬉しそうな顔をしたのでしょうね。そして人生で一度しか捧げられない処女にはもっと特別な力が……、これ以上は母親が言うことではありませんね。

 ……今のメイは笑っていますか? だといいのですが。メイを守ってあげてください。そんなあなたにプレゼントがあります。メイと二度目のキスをしたら届くギフトですので、今夜にでも試してみてくださいね。それと、このページの中心にミシン目が入れてあります。読んだらこのページは破ってもいいですよ?」


 ページの中心を見ると、確かにミシン目らしきものが入っている。

 すごいマメだな。メイのお母さん。


 メイのお母さんは確実に千里眼を持っていたと思う。

 記述が詳細すぎる。それにしても、処女って……。


 そして、2度目のキスでギフトが届くってなんだ?

 そこぞの通販か何かか?


 ツッコミどころ満載だな。


 だが、こんなクズの俺様が。

 シスターといい、メイの母親といい。


 こんなに人に頼られるようになるとはな。



 トントン。



 メイが帰ってきた。

 そして、普通に寝室に入ってくる。


 「ルーク様。ルーク様。あれから外出なさったのですか?」


 こいつ完全に貼り紙を無視してるな。

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