第24項 メイはビックリです


 俺は、両腕の中のメイの肩をしっかり抱きしめる。

 そして、ほんの幾許いくばくかの間をおき、メイと唇を離した。


 目を開けると、お互いの吐息が聞こえるほどの距離にメイの顔がある。


 その目は見開かれ少し驚いている様子だったが、意外なほど落ち着いているようにも見えた。


 そして、すぐに頬に桃色の血色を取り戻すと、幸せそうに目尻を下げる。


 その笑顔は、まるで結婚式で誓いのキスをした直後の花嫁のようだった。


 おれは、少し申し訳ない気持ちになる。

 こんなリハーサルみたいな流れでこうなってしまった。


 すると、メイは俺の様子に気づいたのか、背伸びをして俺に両腕を回すと、抱きつくように身体を寄せた。


 そして、迷いも躊躇もなく、今度はメイの方から唇を重ねてくる。


 ハァ……。


 再び両者の唇が離れる。



 すると、会場に拍手が起こった。

 AチームもBチームも、審査員たちも拍手をしてくれた。


 まるで誰もが2人を祝福してくれているようだった。



 よかった、メイのことを不審に思われなかったようだ。



 程なく面接がおわり審査員の話し合いが始まる。

 参加者は、待合室で待たされている。


 メイはなんだか嬉しそうにしている。


 「みんな拍手してくれたし、きっと私達が優勝ですね!」


 俺は楽観視できないと思う。

 なんせ俺様は個人的に審査員に嫌われているからな。


 メイの祈りが洗練されすぎている点も、とても一見の観光客には見えない。

 観光誘致の観点からは、加点されるとは限らないのだ。


 まぁ、0点でもBチームに負ける気はしないが。



 そうこうしていると、会場に呼ばれた。


 

 審査員が封筒から紙を出し読み上げる。


 「優勝はAチーム。セリーヌ川という敷居の低い観光地を選んだ点も評価されるし、2人の小慣れた様子も具体的なイメージを膨らませ観光客誘致に一役買ってくれることでしょう」


 お二人には賞金銀貨10枚と食品詰め合わせを贈呈します。

 

 今回は準優勝(2位)の該当者はありません。

 

 メイは肩を落としている。

 それにしても該当者なしとはどういうことであろう。


 おれは質問した。

 「該当者なしとはどういうことだ? ちゃんとした理由がないと納得いかないんだが」


 まず、準優勝の選考基準は、補欠的なポジションとしてトラブルの際に採用できるか。

 また公式行事に参加させられるか、ということらしい。

 

 その点、Bチームは公序良俗の点でNG。

 

 Cチームについては、メイは何かしらの神職にあることを疑われる恐れがあり、公式の行事には不向きと判断されたようだ。

 メルドルフに関わりのあるものが、他宗派であるという疑念は絶対にあってはならないものらしい。


 まぁ、体裁に異様にこだわるあたり、いかにも宗教国家らしい。



 選考漏れかとガッカリしていたところ、審査委員に呼び止められた。

 今回、特別にCチームには特別賞(審査委員長賞)を授与してくれるということだった。


 聞けば、なんと、真ん中の審査委員が、Cチームを強力にプッシュしてくれたらしい。


 賞金として銀貨3枚が入っていた。

 今の状況ではかなり助かる。


 それと一通の手紙が入っていた。



 参加者はお互いを讃えあうと、そのまま解散になった。

 俺は残念そうなメイを連れて屋敷に戻る。



 屋敷に戻り、手紙の内容を確認した。

 

 「まずは特別賞おめでとう。これは君の目の前にいた神官からの非公式のメッサージです。まず、あなた。私を蹴飛ばしたことを謝りなさい」


 ちっ。やはり根にもっていたか。

 小物め。


 手紙の内容はまだ続く。

 

 「メルドルフ司教国では、現法王から全ての神官に対して、ある密令が出ています。それは、稀代の存在いわれた聖女の娘をなのる輩の排除」


 なぜ法王が聖女の子の排除を……?


 聖女は10年ほど前に亡くなっており、現在は聖女はいない。


 すくなくとも公には、亡くなった聖女に子共がいたという話しは聞いたことがない。


 俺は続きを読む。


 「聖女は力を子に伝える。そして、メイさんは稀代ともいえる神聖力をもっている。

 私はメイさんのことは本国に伝えません。だから、公式の記録に残る優勝にはできません。私にできるのは、ここまでです」

 

 この手紙を渡すこと自体、この審査員にも相当なリスクがあることだ。法王に知れれば、破門されるかも知れない。


 聖女によっぽどの恩義があるか、なにかの罠か。


 仮にも侯爵家の俺が全く知らないということは、これが本当の話であれば、このことはメルドルフの国家機密なのだろう。


 いずれにせよ、警戒をすべきだろう。



 まぁ、まずは、借金という直近の問題に対応することにしようか。


 俺様はこれから父上に謝罪しなければならない。


 憂鬱すぎるぜ。


 

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