第23項 お題でキスをするのです
審査員からお題を出される。
「あなた達はメルドルフ司教国につきました。さっそくどこかで観光しましょう。あなたたちは、どこで観光しますか? また、その様子を表現してください」
Aチームからプレゼンする。
「私たちは、セリーヌ川でゴンドラにのり、首都メルドルフを巡りたいと思います。手を繋いで、メルドルフの優美な景観を楽しみたいと思います」
そして、カップルで見つめ合う。自然な流れで手を繋いでキスをした。
審査員らは頷いている。まずまず好評なようだ。
つづいてBチーム。
爺さんは「わしらは、メルドルフで一番のホテルに直行じゃ。これお手当。今日の分」と宣言すると、女性に札束をわたした。
お金を受け取ると、女性の方から「いつもありがとう〜」とあつい抱擁とキスをした。キスは情熱的で、審査員が止めに入るほどだった。
いったいなんのお手当なんだか。
……こいつらは消えたな。
俺様はメイに耳打ちする。
「AチームもBチームもキスしてるぞ。とりあえず、キスしないとスタートラインにすら立たなそうなんだが……」
メイは顔が真っ赤になる。
「キ、キス……」
メイは唐突にミントの飴玉を舐め始めた。
飴玉がなくなると、今度は両手で口と鼻を覆い一生懸命スーハースーハーしている。
なんかの儀式だろうか?
昔、こういう不良いたよね。
そして一通りの準備が終わったらしい。
「いいですよ! ルーク様に捧げます!!」
といっている。
フリでいいのに。
何を勘違いしているんだか。
それにしても、俺様、メルドルフの観光地のこと全く知らないや。
適当に山、川みたいなフワッとした表現でもいけるかな。
「メイ、お前、なんかメルドルフの観光地知ってる?」
ダメもとで聞いたんだが。
「大聖堂なら知ってますよ!! 丸くて光ってて大きいんです」
なんかね。
コイツの記憶の解像度に疑問が残るんだが。
知らないよりはマシだろう。
それでいくか。
Cチーム(俺様)の番が来た。
今度はカッコよく、俺様がプレゼンするぞ。
「私達は、まずレイア様の大聖堂にいきます。そして、そこで、2人を出会わせてくれたことの感謝を伝えます。せっかく、メルドルフまで来たのです。そのあとは商店で買い物デートをします」
すると、メイが手を組み合わせ片膝を着く。
仕込みにはない動作だ。
祈りの再現かな?
ナイスアドリブ!!
その美しい容姿と洗練された所作に、会場の皆の視線がメイに集まる。
メイは、目をつむり祝福の言葉を唱える。
「……慈悲深き豊穣の女神レイアよ。貴女から賜りし愛を知り、私は運命と生、そして死に立ち向かう勇気を得ました。それは、若葉が芽吹き、いずれ大樹となるように……」
メイの周りに魔力…、
いや、神聖力が高まる。
神聖魔法が使えない俺様にでもわかる規模感だ。
並の神官の比ではない。
祝福の言葉だけでこの高まり。
メイは神官ではない。
だとすれば消去法的に、
直接に女神から祝福と寵愛を受けているということになってしまう。
俺が知ってる限り、そんな芸当ができるのは……。
使徒くらいなもんだ。
神の力を借りるのではなく、神威を代行する者。
その神聖力は、法王の遥かに上をいく。
だとすれば、宗教国家であるメルドルフ司教国にとって、メイは国家統治の脅威でしかないだろう。
これはまずい。
祈りをやめさけねば。
しかし、突き飛ばしたりしたら不自然すぎる。
俺が発覚を恐れて妨害したようになってしまう。
それに銀貨10枚の夢も、どこかに消え失せる。
俺は、メイの正面にまわった。
そして、肩をだき立ち上がらせると、目を閉じたままのメイにキスをした。
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