第40話 ユイナside2


「わたくしもユイナ様と同じだったわ。王宮ではなく公爵家に閉じ込められて外に出られない日々を過ごしていたの。わたくしが外出できたのは結界を張る時だけだったわ」


「そ、そんな……!」


「わたくしも今のユイナ様と同じ状況だったの」



アシュリーの声は震えていた。

それから自分の境遇について話しはじめた。



「オースティン殿下もわたくしが幼い頃は優しかった。でも次第に当たりが強くなって……道具のような扱いになっていきましたわ」


「……そ、それ!私もですっ!オースティン様は初めはとても優しくて、たくさん褒めてくれたのに……最近はちゃんと治療しろ、しっかりしろってそればかりでっ」



ユイナは絞り出すように声を上げた。

アシュリーの言葉が今の自分の状況に当てはまるように感じた。



「両親はわたくしを金儲けの道具にしていたのよ……次々にエルネット公爵邸を訪れる人々にずっと休みなく治療をして、国のためにと結界を張り続けていたわ」


「そんなの、ひどすぎるわ……っ!」


「搾取されるだけ搾取されて体調を崩しただけで捨てられた。ユイナ様に初めて会ったあの日、わたくしは王家から偽物、用済みだと言われたのよ」


「……ぁ」



『偽物』『用済み』

アシュリーが言ったその言葉は激しくユイナの心を抉った。

彼女の話を聞いているとユイナの中で不安がどんどんと積み重なっていく。

アシュリーが泣きながら去って行った時のことを思い出していた。


『お前の顔など、二度と見たくない』

『もう用はない』

『さっさと俺の前から消えろ』

『俺の名前を気安く呼ぶな。もう婚約者でもないのに不敬だぞ』


あの時は本物の王子様であるオースティンに結婚を申し込まれて浮かれていたせいで気がづかなかった。

もしもあれがオースティンの本当の姿だとしたら、自分も用済みだと捨てられてしまうかもしれない。

今だってオースティンはユイナを見て苛立っているようだった。

徐々に仮面が剥がれていきユイナもアシュリーのようになってしまうのだろうか。


(私もあんな風に言われてしまうの?怖い、そんなの嫌ッ!耐えられない……)


ユイナが呆然しながら震えていると、アシュリーは乾いた唇を開いた。



「その後、一方的に婚約破棄された後にお父様とお母様からも罵られて暴力を……」


「アシュリー、もういいんだ」


「ギルバート殿下っ!」



ギルバートの服を掴みながら顔を隠すようにして抱きついているアシュリーの小さな身体はガタガタと震えていた。

痛々しいアシュリーの姿を見てユイナは目に涙を浮かべた。


今思えばあの時のアシュリーは確かに異常だったのかもしれない。

ボロボロと涙を溢して憔悴したまま歩いて行った。


(アシュリー様から治療を受けるためにたくさんお金を取られて、偽物の力で騙されてきたって言ってたのに……もしかして全部、嘘だったの?)


あの時はオースティンと結ばれたことが単純に嬉しかった。

知らない場所でもユイナを受け入れてくれたことに安心していた。

しかしアシュリーの話を聞いた後ではすべてが違う意味に感じた。



「わたくしはギルバート殿下がいなかったら心が折れて立ち直れなかったでしょう。ずっと尽くしてきた人たちに裏切られて、わたくしは……っ」



ギルバートは悲しげに涙するアシュリーの背を優しく撫でている。

そんなギルバートの苦しげな表情からも、アシュリーがどれだけひどい目に遭わされたのかがわかるような気がした。


(アシュリー様は何も悪くなかった……!被害者なんだわ!)


ユイナは叫ぶように言った。



「ごめんなさいッ!アシュリー様のこと全然知らなくて!」


「いいのよ、ユイナ様。こちらこそ取り乱してしまってごめんなさいね」



アシュリーはそう言って涙を拭うと瞼を閉じた。

綺麗な涙が頬を伝って真っ黒なドレスに染み込んでいく。



「それに……ある時、気づいてしまったの。この力は、わたくし自身を犠牲にしているって」


「…………犠牲?」


「わたくしは残りの時間をギルバート殿下とペイスリーブ王国のためだけに使う予定よ」


「残りの、時間……!?」


「えぇ、そう。わたくしに残っている時間はすべてギルバート殿下に捧げると決めたの」


「嘘でしょう!?アシュリー様、それって……!」



あまりの衝撃に大きく目を見開いた。

アシュリーのその言い方は、まるで治療のために自分の命を削っていると言っているように聞こえたからだ。

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