第41話 ユイナside3
「そんなっ……嫌よ!」
「ごめんなさい、ユイナ様。これ以上、話すとギルバート殿下に迷惑が掛かってしまうから言えないわ……本当にごめんなさい」
「……っ!」
アシュリーに詳しく話を聞きたくて仕方なかった。
けれどこれ以上言えないと言われてしまえば、どうすることもできなかった。
「どうかご自分のことを大切にしてね、ユイナ様」
「……!」
「このことは他人に言わない方がいいわ。何も知らないユイナ様をいいように使いたい人たちがたくさんいるでしょうから」
確かにユイナはこの国のことを何も知らない。
皆に言われるがまま治療をしてきた。
それに今まで数えきれないほどの人を治療している。
何回も何十回も、何百回も……そう思った瞬間、恐怖に足が震えた。
「わたくしのようになりたくなければ何も言ってはダメよ」
「………!」
アシュリーの真っ赤な唇に人差し指があてがわれる。
「あの……!」
アシュリーは言葉を遮るようにして手を握った。
冷たい指がスッと体温を下げていく。
アシュリーのライトブルーの美しい瞳に魅入られたように動けなくなる。
ユイナの目には涙がじんわりと滲んでいた。
「……あなたに神の御加護がありますように」
アシュリーはギルバートに支えられながら背を向けて馬車に乗り込んだ。
「ぁ……っ、待って!」
馬車の中を見るとアシュリーは両手で顔を覆っていた。
ギルバートがアシュリーを抱きしめて必死に宥めているように見える。
ユイナは走り去る豪華な馬車を見送ることしかできない。
先ほどのアシュリーの言葉に震えが止まらずに頭を抱えていた。
(ど、どうしよう……!)
アシュリーはユイナを『可哀想』だと言った。
それは自分と同じ道を辿ることを知っているからだろうか。
(そんな……嘘でしょう?)
オースティンからアシュリーのことを詳しく聞いたことはなかった。
聞こうとしても不快そうに顔を歪めて「あの女の話はしなくていい」と言われるからだ。
そこからオースティンの前でアシュリーの話をすることはなかった。
(もしかしたら……私も次に力を持った人が現れたら捨てられるの?)
ユイナは自分の震える両手を見た。
しかし、その兆候はもう出始めているのではないだろうか。
オースティンは「ちゃんとしろ」と辛く当たることも増えてきた。
いつもオースティンが苛立っているのは、気の所為ではないはずだ。
城の人たちにも影で色々言われていることはユイナもわかっていた。
『オースティン殿下もわたくしが幼い頃は優しかったわ。でも次第に当たりが強くなって……道具のような扱いになっていったの』
徐々に力が弱くなっているは気になっていた。
オースティンの苦しむ顔を見てユイナは責任を感じていたからだ。
だから自分なりにオースティンを気遣ってアシュリーに何か解決方法がないのか聞きに行った。
アシュリーは色々なことを教えてくれた。
恐らく、皆が教えてくれないようなことを同じ立場にいるユイナのためを思って言ってくれたのだろう。
(アシュリー様は私のことを気遣って色々と教えてくれたんだわ!王宮の人たちとは全然違う。なんて良い人なの……!)
それにユイナが一番気になっていたのはアシュリーのこの言葉だった。
『それに……ある時、気づいてしまったの。この力は、わたくし自身を犠牲にしているって』
その言葉に衝撃を受けた。
アシュリーが言った『自身を犠牲にしている』という言葉が、先ほどからずっと心を揺さぶっていた。
この国で唯一、同じ力を使うことができるアシュリーの言葉だからこそ大きく中に残っていた。
『わたくしはギルバート殿下がいなかったら心が折れて立ち直れなかったでしょう。ずっと尽くしてきた人たちに裏切られて、わたくしは……っ』
アシュリーの言葉はユイナを恐怖に突き落としていく。
(このままだと私もアシュリー様のようになってしまうんだわ!)
この世界に家族もいなければ、本当の意味での味方もいない。
アシュリーのように隣国の王太子に助けてもらうこともでき
ない。
未だに王宮から出たことがないため、もし捨てられてしまえば一人で生きていくことなど不可能だろう。
それがわかってしまったから怖くて仕方ないのだ。
『わたくしは残りの時間をギルバート殿下とペイスリーブ王国のためだけに使う予定よ』
アシュリーは今、ギルバートとペイスリーブ王国のためだけに力を使っているのだろう。
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